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白紙二枚目 [白紙]

そこにあったのは、何の変哲もない或るブログの、白紙のページ。
一枚目で既に仕掛けに気付いた人もいれば、
この二枚目で初めて気付く人もいるかもしれません。
「なんだまた白紙か」と気にせず去ってしまう人も、いるでしょう。
貴方がその白紙に指を走らせると、意図して隠されたと思しき文字が浮かび上がって来ました。

何よりもまず、『重い』と感じた方、正解です。
文章量のためか、反転してスクロールすると大変動作が重くなる場合があります。
メモ帳などにコピー&ペーストしてお読み頂いた方が良いかもしれません。
そこまでの労力を費やすほどの価値がある文章かどうかは、はなはだ疑問ではありますが。

誰も得などしないけれど、それ故に書く意味がある。
理由が無いから面白いのが『遊び』だと、偉い人は言いました。
当作品が無事に完結する保証など、どこにもありません。

気を付けてほしいことには一つ。
第零話に続き、この第一話にも、魔砲少女まじかる☆りぷるんは、登場しません。
それはもう清々しいほどに別の作品となっております。
どうしてこうなりましたか。

それでも当作品は、MFLの世界を舞台にした、偉大なる先駆者やみなべの著作『魔砲少女まじかる☆りぷるん』の二次創作であり、
MFL、魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の世界観や雰囲気といったものをぶち壊す可能性に満ちております。
特に今回、ニェポやツェーテなど、NPCとのやりとりが多く、MFLには無かった私の妄想が盛り込まれておりますので、貴方の愛するキャラクターたちのイメージを台無しにすることが予想されます。
この作品を読み進めるにあたり、細かいことは気になさいませんよう心よりお願い申し上げます。
MFL・魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の舞台を借りた、全く別の作品となり下がっておりますので、どうぞたかが二次創作の気持ちでご覧下さい。

ところどころ修正されている点があるようだ、過去にこの白紙を開いた人はその違和感に気付くかもしれない。



--- キ リ ト リ ---



『暴走少女スィンパ』


オープニングテーマ 『誰も噂しないジェントルガール』
作詞作曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:ミルク・プリンエル・バケット




第一話(違) 紳士的に着こなせば




ギルドファームは個人ファームよりも街の近くに設けられており、謎の美女を志した その日のさして時間も変わらないうちに、街の門まで来る事が出来た。
スィンパはその門をくぐってすぐ右手の裏道に入り、その肩の上で、橙はなぜ裏道?と首をかしげる。
「やっぱ謎に包まれた何者かはこっそり、裏道でなくちゃね!」
「にゃー・・・」
90歳になるまで付き合った橙にも、このブリーダーの考えることは時々分かりかねた。

タウンを囲う外壁と建物の壁との隙間は、昼間であるにも関わらず薄暗くて涼しい。
その道を行きながら、スィンパは口を開く。
「さて、まずキャラクターとして鮮烈に、清く正しく美しく、人々の心にその姿を刻み込むには!・・・・・・何が必要か!はい橙!」
何やら自信ありげに問われて、橙は思索した。
長年に渡り見聞きした経験、あらゆる物事と接する中で洗練されてきた思考、
橙の灰色の脳細胞は、スィンパの単純な思考回路に合わせて、一つの答えを導き出す。
「にゃっ」
「え?今なんて?」
出たよ聞こえない振り。
或る程度は予想していたようで、橙は、ふっとニヒルにため息をついた。
「まぁ正解かどうかはさておき、まずは形からってことで。必要な物は、キャラクターを表す分かりやすい装いだ!」
「にゃにゃん」
「その前にクールでミステリアスな人格を演出すべき?・・・このままで謎の美女にはなれないかなぁ」
「にゃー!にゃふー!」
「はいはい、そもそも全般的に異論があるわけですね、分かってるってば」
肩の上でジタバタし始めた橙には分かったと言いつつ、止めるつもりはないので全力で聞き流す。
そのまま裏道を抜ければ、ギルド会館の横に出た。
目の前に人。
「おっと」
「わ、って貴方達どこから出てきてるのよ!」
そこにいたメロワナは、もー!びっくりした!と文句を垂れる。
よもや裏道から人が出て来るとは思わなかったのだろう。出て来る方も裏道を抜けた先に彼女が居るのを忘れていたのだが。
「な、なに?またかくれんぼ?裏道くらい禁止しなきゃ、誰にも見つけて貰えないわよ?」
「ふひひサーセンwww」
その光景にクワージィが穏やかに笑うのを横目にしながら、いつもの調子で返して、するりと時計屋の前まで出て行く。
向かうはツェーテの営む仕立て工房、求めるは謎の美女装備、である。

ツェーテはいつも通り、片腕にかけた布を眺めてデザインを考えながら接客をしていた。
「こーんち!」と声をかければ、彼女の視線はスィンパの顔を見るより先に、足元へ、
そして「貴方いい加減に靴の一つもお履きなさいな」と返される。
「そんなことよりツェーテさん!」
「何ですの?そのいかにも頼みがありますって顔と言葉は」
よほど分かりやすい態度だったらしい、てへ☆と笑って用件を告げる。
「ミステリアスで魅力的なブリーダー装備をくーださーいなっ」
「あら…なんだか珍しく抽象的な注文ですわね?」
「へっへー、絶妙でしょ?」
「いえ、自慢げに言われましても…そうですわねぇ…その恰好でミステリアスならばこれしかありませんわ!」
有無を言わせず試着させられたのはスエゾーのお面、辛子色の上下の夏衣に妙に合う色で、違和感ないその組み合わせにスィンパは唸る。・・・しかし。
「謎という意味では大勝利だけど、理想とは何かが絶対的に違う気がするのはなんでだろう」
「ヒーローショーで悪役を張るならこれ以上は無い装いでしてよ?小さい子のハートもしっかりゲット、掴みはバッチリですわ」
自信ありげに胸を反らして、ツェーテはスエゾーお面の値段を告げる。
「12000spになります♪」
「お返しします」
金額が耳に入った瞬間、顔から引っぺがしてツェーテに突き返した。
あらら、と言ってスエゾーお面を受け取ると、商品棚に戻すツェーテ、気付けばお面を陳列した商品棚にはモッチーだのスエゾーだのがずらりとならんでいるのであって、なんというか、ええいこっち見んな。
商品棚のお面たちとにらめっこしながら、少々ミステリアスの解釈がずれて伝わっているらしいとスィンパは思案する。
「ヒーローショーの悪役じゃなくってこう・・・出来ればヒーローを颯爽と救いに現れるような方向の、そこはかとなくクールなミステリアスさを、お願いします」
「クールでミステリアス?・・・では、青と黒で揃えて蒼銀スクドの上下に、レフィナドの靴と帽子であわs・・・」
「ストップそれはまさか?」
「ニコニコMP払いですわ」
「そんな特別なお金持ってないですし・・・ほら、青って例の謎の美女と被ってるしね!」
とってつけたような屁理屈に、ツェーテの目がこの貧民め!と言っている気がするが、気のせいにしておいた。
その見下すような視線に疼くものがあったが、そっちも気のせいということにしておいた。
ぽん、と手を打って、ツェーテは提案する。
「それではリーズナブルに纏めましょう!スクド兜に礼服セットで合わせてみてもなかなか・・・こちらは5450spと大変お求め安く」
「男性用礼服の腹チラに嫉妬してしまうので謹んでお断りします」
売り込み口上が終わる前にカットすれば、ツェーテはやれやれと呆れたようにため息をついた。
「強がらずにお金が足りないと仰いなさいな」
「分かってて勧めてたんだ!わあ鬼畜!もっとやって!!」
「とりあえず靴を履いてください靴を、・・・ほむ・・・・・・そうですわねぇ」
投げやりな調子で変なことを言い出したスィンパに適当な返事をしつつ、ツェーテは急に仕事人然とした真面目な顔になる。
「あなた、大海獣の髭を10個持っていらっしゃいな」
「一体何を言っているのですか」
どんな名案が来るのかという期待が大きく外れて、思わず敬語で突っ込むスィンパを、まぁまぁとなだめてツェーテは続けた。
「お金が無ければ自分で材料を調達してしまえば良いのですわ、私にかかれば失敗無し!素敵じゃありませんこと?」
「あぁ、大海獣の髭って服の材料なの。なかなか冴えたことを・・・失敗なしなんて、ティッキとは大違いだね!」
俄然やる気が出た様子で応じるスィンパに、ツェーテは胸を張った。
「ふっふっふ・・・手広くやっている人と専門家を比べちゃいけませんわ、まぁティッキさんは手に入りやすい素材から物を作ることが出来るという点で、見習うべきところが・・・あら?」
自分の世界に入りかけてから我に返って見れば、ほんの10秒前まで目の前にいたスィンパと橙は何処へやら。
店の前の噴水辺りまで見に行けば、階段を駆け下りて行く背中が見えた。
「なけなしのお金で上級回復薬の一本でもお買いなさいね!」
半分冗談のつもりで言ってはみたが、カクッと向きを変えてミリーアの雑貨店に行くのが分かる。
「あの子、美味しい話には裏があるというのを、勉強したことは無いのかしら・・・何も訊かずに行ってしまって」
そしてツェーテはくすりと笑う。
「・・・この場で思いついた割には、想像以上に計画通り動きましたわね」
隣の店のガラカラには普通の笑顔にしか見えない顔で、ツェーテは黒い笑みを浮かべるのだった。


船着き場へと続く出航受付所は、流石の遠征日和、遠征に出かける人々でごった返していた。
海の臨めるその場所にはチビのニェポに看板娘のヒューリ、そして船の舵を取るデーボが居るのだが・・・
やはり遠征先にブリーダーを運ぶ仕事というのは忙しいらしく、実際のところなかなかデーボは居ないものだった。
そんないつもの遠征受付所のカウンター、スィンパはニェポに絡んでいた。
「へいへいボーイ?いつぞやは操舵技術を見せてやりたいなーなんて言ってたな?見てやるから船を出せ!」
「急に何言ってんのスィンパさん?今日はこんな良い日和だから遠征する人が多くて忙しいんだ、また今度ね」
「なにをぅ、事件は日々現場で起きてるんだよ!明日じゃ間に合わないヤマがある!!」
「いやホント何言って・・・あ、はい遺跡行き?いくつかあるけど最近見つかったばかりだからなぁ・・・」
釣れなくも作業を再開しかけるニェポに、未練がましく追いすがる。
「おぉいニェポぉぉう」
「仕事の邪魔しないでよ、姉ちゃ・・・」
「すみませんでした」
ヒューリに助けを求めかけたのを見れば、サッと引き下がる。
ニェポはともかく、ヒューリさんとは争いたくないものだ、麗しいその笑顔を見ていたい的な意味で。なかなか彼女の笑顔は拝めないものだが、そこがまた良い。
あぁ、でも怒ったヒューリさんもまた可愛いんだろうな・・・と思ったので追撃を始めた。
「ニェポっち、大海獣って・・・見たことあるかい?」
「だいかいじゅ・・・あー、大海獣か、あるよ」
「デスヨネー」
耳に入った言葉を理解する前に返事を聞いた気になって、再び撤退。
流石にちょっと作戦に無理があった。
直接大海獣から毟り取りに行ってやろうと思ったけれど、こんなちびっ子に大海獣と遭遇した経験があるわけ・・・
「にゃっ!」
「ハッ!?」
足元で他人の振りをしていた橙の一声に我に返ると、ニェポの元までダッシュ三歩で戻る。
「バカバカ今なんていった!見たことあるだと?」
「あるある、あいつ南の海に居てね、海に回復薬を流すと寄って来るんだ。好きな味なのかなぁ」
問えば、世間話でもするかのような調子で肯定された。
「いやぁ飲むのそれ?っていうか本当に居るもんなんだ。私も見てみたいなぁ・・・・・・ということで一つ、ニェポ先生の操舵技術を!」
「最近行ってないし、おいらは良いけど・・・姉ちゃん、行っても・・・・・・」
ようやく気の乗ったらしいニェポがチラリと横を見れば、いつの間にかニェポの分の仕事もこなすヒューリ。
「さっきからお喋りばっかりしておいて今更言うな!とっとと行って戻ってこいッ!!」
激しい怒号に、受付をしていた他のブリーダーまで身を竦ませる。
やっぱり怒った顔も綺麗だった。
「ひぃぃごめんなさいっいってきまああす!!」
剣幕に押されるように、ニェポはカウンターを飛び越えて、スィンパは殺気立ったヒューリの顔に悶えながら、
二人と一匹で受付から海の見える方の出入り口へと駆け出すのだった。

受付から一歩出ると、海はもう眼前に限りなく広がる。
潮の香りは街全体に漂っているが、船着き場は他の島々との玄関口、街のどの場所よりも海に近く、そこに息づく生き物の匂いを含んだ風が、強く優しく波と共に寄せる。
海以外には、近海の遠征地として名高いトリタッカ島なんかがポコポコ見える程度である。
その船着き場には船を停泊するためのスペースが多く設けられており、海に生きる人々が忙しく働いていた。
漁船に運搬船、獲れたての魚を降ろす船があり、これから何処かの島へと物資を調達しに行く船もあり、
デーボ不在の時にブリーダーを遠征地へ送るのは、大体彼らの仕事なのだった。
ブリーダーの持ち帰る物資の重要性は大きいらしく、実際彼らに遠征地への船出を頼んでも一度として嫌そうな顔をされた試しはない。
なんてことをしみじみ考えていると、船着き場の先を行くニェポが或る船の前で止まった。
デーボの船のための大きなスペースの横に、ちょこんと8人ほど詰めれば乗りこめそうな帆船があり、ニェポが出発の準備を始める。
「それがニェポの船?操舵輪があって…とかそういうでっかいのじゃないんだねぇ」
「まぁ、父ちゃんみたいに相棒のレシオネが居るわけじゃないし、大きい船はまだ早いってさ・・・」
「その口ぶりじゃ、やっぱ大きい船が欲しいのか」
「そんなこと・・・、出発するよ!」
陸と船をつなぎ留めていたもやい綱をほどけば、ゆっくり船が港を離れる。というかこんなに小さい船だと波にさらわれているように見えて非常に不安だ。
足の下は果てしなく海なんだろうなぁと思うとゾッとするが、ニェポの方は楽しそうだし、危険と隣り合わせというほどではないのだろう。
太陽から大体の方角は分かるのだろうが、念を入れて長細い磁石を水に浮かべ羅針盤にする。
そしてニェポは南に向かう風を捕えて船を走らせた。

・・・・・・。
そこからどんぶらこっこと、カンミイネで軽くご飯が炊ける程度の時間をかけて海を行く。
橙は丸くなってお昼寝タイム、ニェポは帆を動かし、スィンパはなにくれとなく喋って過ごしていた。
「結構時間かかるもんだね・・・帰ったらヒューリさん怖くね?」
「承知の上で送り出してくれたんじゃ・・・ないかな」
「希望的観測は人生を上手く生きるコツですね分かります」
「上手く生きるコツねぇ・・・なんて言ってる間に、ほらこの辺だよ」
手慣れた様子で帆を巻きあげながら、ニェポは言う。
見渡す限り海。・・・いや、進行方向3時の方向に、何かの島があるのが見えた。
「あの島が目印。これ以上行こうとすると海流に流されちゃうからね」
「怖いことをさらっと言うなぁお前は・・・」
身を乗り出して、船底に放り出されていた無骨な水中メガネで海を覗く。
「・・・・・・青い」
何が見えるかと思えば、海の底も見えず、海草の類もありゃしない。ちらほらと魚の群れの泳ぐのが見えるばかりだ。
「そりゃそうだよ大分遠くに来たもん、・・・呼ぶよ?」
言いながら、ニェポが自前で用意したものか、回復薬の蓋をキュッと開けて海に流し込む。
「ニェポ、それ環境汚染じゃ・・・」
「海由来の成分を使ってるとかなんとか、ミリーアさんが言ってたけど・・・」
「ああそっか、元はただの森水か」
ミリーア雑貨店が独自に開発した製法で、他に使い道の無かった森水を回復薬の原料として利用しているとかしてないとか。いっそ化学賞の一つも貰っておけば良いんじゃないかと思う。
とりあえずは、一本流し終えた。
緑の液体は海の青に溶けてあっと言う間に色を失う。
緊張気味にそれを見ていたスィンパが、あまりにあっけなく消えた緑の液体にぽつりと漏らす。
「少なそうだなぁどうなのそれ」
「もー、スィンパさんは文句が多いなあ、黙って待ってなよ」
「黙って待つ?また難しいことを・・・・・・」
言いつつ待つこと数分。
ザバリと波同士がぶつかる音に、ふと海のうねりが強くなってきたことに気付いた。
船辺を叩く波の音が、強い。
「おいぃ?大丈夫なのこれぇ?」
「来てるんだよ、今まで何度もやってるけど、船が転覆したことはないし大丈夫」
「そういや聞き忘れたけど、大海獣ってどれくらいデカ・・・・・・」

ズァァ・・・・・・

急に前方の海が盛り上がって、青黒い塊が、割れた波の中から姿を現す。
でっかい身体に四肢に、尾びれ。
グジラ・・・だろうか、大きさはデーボのレシオネくらいはありそうだ・・・と思った瞬間にはそれは海に潜り直すところだった。

ドバッシャァァァアン!!!

海中には泡が激しく渦巻いて、海上では海水が大きく跳ね飛んでいく。
起きた大波に船が揺れる、揺れる。ついでに塩っ辛い水がぱたぱたと顔を叩いた。
驚いて飛び起きる橙、「想像以上にデカイじゃないかこの野郎・・・」と呟くスィンパに、目を輝かせるニェポ。
「その顔・・・ニェポ、あれを飼い慣らして相棒にしようって腹じゃ」
「そっそんなこと考えてないやい!」
「あーあー分かりやすいんだからもう」
言っている間にも、大海獣の方はこちらへと迫る。
妙に時間をかけて船の下まで来ると、ゆっくり回り始めた。
・・・動きがぎこちなく見えるのは、なぜだろう?
それはさておき、改めて水中メガネで見ればなかなか、可愛らしい顔をしているもので・・・
「おぉ・・・ふ・・・」
思わず声が漏れる。なるほど、口の中にゴシャゴシャと生えているのはまさしく大海獣の髭だった。
「いつも来るたびにこうやって回るんだけどね・・・何をして貰いたがってるのか分からなくてさ・・・」
「回復薬で寄って来るんだから回復薬寄越せってところじゃないの?」
「うーん・・・どうなんだろう・・・確かに動きはなんかおかしいし、見に来るたびに痩せて見えて、心配なんだよね」
「ほう」
スィンパのお節介心が動いた。
「・・・ニェポ、こいつ肉食じゃないよね」
「え・・・アンテロは草食っぽいけどお肉食べさせれば食べるし、ライガーだって野菜食べるし・・・」
「保証の限りではないと?」
「だって餌付けしても何も食べないんだもん」
「それなら食われることも無いなってことにしておこう」
上下の夏衣を脱ぎ捨てて、ヴァシアタ市民お馴染みのパジャマな下着姿になる。
恥じらい?ショタを相手にそんな物は無かった。
橙は主人の行動を察して、ポンとその肩に飛び乗り、スィンパは軽く準備運動しながら宣言する。
「さー頭の天辺から尻尾の先まで、舐めつくすように診断してやんよ!」
そぉい!と船の足場を蹴って、海へと躍り出た。

ジャボンッ

泡を巻き込んで、勢いで海に沈み込む。
水温の冷たさに縮こまるが、まだなんとかなりそうだ。季節は夏に向かう頃、流石に海水浴にはまだ早いらしい。
海の中にいるという恐怖心が膨れ上がる前に、更に深く潜る。
すると、大海獣がそれに気付いて寄って来た。

・・・・・・思いっきり口を開いて。

ギョッとして必死に手足をばたつかせ、慌てて海面に戻る。
「ぶはぁっちょっばっかじゃねーの誰だよ何も食べないとか言ったやt」
船に上がる隙なく。
大海獣が海水を飲み込む勢いに引きずられて、海中に連れ戻される。
口の中に流れ込んできた海水の塩辛さに、のどの奥が焼けた。
諦めずに海面を求めて水を掻けば、ニェポだろう、目の前にロープの付いた浮き輪を投げ込まれた。
水中であるため思うように身体は動かないが、それでもなんとか浮き輪にしがみついて、大海獣の方を見やる。
見えるのは大きく開いた口、その上あご、びっしりと生えている大海獣の髭・・・・・・の、奥に引っ掛かってる、なにか。
見覚えのあるそれは、遠海の遠征地でよく見かける渦巻き貝の・・・
(プリネウス?)
プリネウスがチクチクと大海獣に攻撃を仕掛け、それで大海獣の方はマヒを受けているらしいのが分かった。
というかまさか、ずっとこの調子で居たのか、大海獣もよく生きてるな・・・って感心している場合ではない。
橙に目配せして、プリネウスに向かって指示具の若木の木剣を指し、
この距離からなら中距離で良さそうだと判断して、指示具の振りで示す。
水の重い抵抗を受けながらも若木の木剣を2度上に突き上げてから振り下ろせば、橙には何をどうすれば良いのかが伝わった。
慣れない水の中、橙は肩の上で踏ん張りつつ、頷いて、集中。
狙い通りの場所へと収束する光に、何か引っかかるものを感じた。
(・・・・・・待った橙!お前確か中距離技ってぇぇ!)

バリバリーッ

離れた場所から一か所に集中して炸裂させたとはいえ、電気を通す海の中で、手加減なしのムーンサンダー。
プリネウス撃破は勿論のこと、口の中に雷を見舞われた大海獣に、一緒に海に潜っていたスィンパ、技を繰り出した橙にまで電撃が走る。
幸いにして海に流れは無く、結果として帆船の周りに1人と2匹の背中がプカリと海面に浮いたのだった。
「えっ・・・ええ?」
船上に一人残されて、海の中、若木の木剣の緑色が振り回されるのを見、一生懸命引っ張っていた浮き輪のロープが弛んだと思ったらこれである。
残されたニェポの仕事は、多い。

船上に引き上げられたスィンパが目を覚ませば、ニェポはちゃっかり、スィンパのポーチから出した上級回復薬を大海獣の口に垂らしているところだった。
一言いってやろうと思いかけたが、橙のムーンサンダーのダメージもあったろうと大目にみてやることにした。
とりあえず橙の攻撃の分もあろうが、長々とプリネウスに削られた口の中たるや、大変なことになっているのだろう。
引っ掛かって抜け出せなかったらしいプリネウスにも、口を占拠されてチクチクやられた大海獣にも、難儀な話である。
橙の方は高齢なのになかなか無理をさせたところだったが、心臓マヒもなく、ホッと胸を撫で下ろした。
「にゃんにゃー・・・」
「いやあ橙の心配はするけれど、無茶ばっかりは止められないよ!」
楽しいし!と言った途端、橙に頭をかじられる。
その一方で、海から頭を出した大海獣をぺたぺた撫でるニェポ、
それを眺めていると、彼らが一緒に海原に繰り出す日も、そのうち来るんじゃないかなぁという気がした。

漁船と間違えでもしたのか、帆船の上でクークーと鳴く海鳥に目をやれば、少し暮れかけた太陽に、海と空の色が変わり始めるのが分かった。
「ナイスグラデーションだね」
壮観壮観、と呟くスィンパに、ハッとした様子でニェポが顔を上げる。
「えっもうそんな時間!?あ、あ。駄目だ海流が変わる!帰らなきゃ!!」
尋常ではない様子に、スィンパも慌てて水平線に目を走らせるが、あちゃあと諦め混じりに呟いた。
「いやぁニェポさん、もしかして気付くの遅いんじゃね?」
スィンパは視線の先を指す。
目印だった島が、水平線の向こう側に姿を消していた。
ニェポの顔色が変わって、バタバタと帆の向きを変えるが、そこに捕えるべき風は無い。
海面の動きを見るに割と順調に流されているらしく、船の推進力になろうとも人間一人のバタ足くらいじゃどうにもならないであろうことが分かった。
「ちなみに流される先はどこだっけか・・・」
「し、知らないよう、疾の推進材が無いと進んで行けない、海の荒れた場所なんだ・・・」
「うわぁなにそれ凄く素敵」
「船がばらばらにされて・・・波に呑まれて・・・その先はどこに行くんだろう・・・」
ニェポは頭を抱え、スィンパは遠ざかるユタトラの方角を眺め。
・・・・・・ふと、海に投げ込まれたままの浮き輪が、海面に浮いていないことに気付いて、スィンパはニヤリとした。

「おいしっかりしろよ、お前の操舵技術はどこいった?」
スィンパの一言と同時に、グンッと、流されるのとは逆向きに引っ張られる船。
マストの根元に結わえられた、浮き輪に繋がるロープが海に向かって伸び、ピィンと張っている。
その先には、海面からちょっと覗いた大きな頭。
それがチャプンと潜ると、グイグイと船は、逆向きに進みだした。
「・・・だ・・・大海獣・・・」
大きさからして普段はもっと速く泳ぐものなのだろうが、船が転覆しない速さを心がけているのが分かった。
船としては本来の方向とは逆向きに進むだけに無駄に波を跳ね上げながら、あっという間に目印の島の見える場所まで戻ってくる。
更にしばらく行ってから、引っ張られるスピードは落ちて、ふっとロープが緩んだ。
「ここまでらしいね、やれやれユタトラまで送って行ってくれよどうせならー」
「ううん、ユタトラまで行くと水温が下がるんだ、それでもこんなところまで・・・」
なかなか義理堅いじゃないの、などと運んで貰う側の勝手な感想など気にする風もなく。
大海獣は、引っ張っていた浮き輪をポンっと船に放って、潮吹き一つくれると、登場の時と同じように勢いよく海に潜った。

ドバッシャァァァアン!!!

かなり近い場所で潜るものだから酷く船が揺れたが、ニェポは楽しそうに笑った。
無事にユタトラに帰れる見通しが立った一方で、何か忘れているような、しっくりこないものがあったが、まぁ良しとしようか。
「ありがとー!ありがとーねー!!」
声を張り上げながら、大怪獣が姿を消した方角に向かってニェポが大きく手を振ると、折よく風が出て、帆がパンと張った。
陽はゆっくり沈む、日没までには、ユタトラに帰れそうだ。
スィンパは初めて、故郷ではなくユタトラの自分の住処に帰りたい。そう思った。


大海獣ともども電気ショックを食らったスィンパも、時間を見誤って海流に流されるニェポも、
惜しいところで詰めの甘いのが一人前未満ということか。
それでもなんとか生きて帰れて良かったじゃないか!
とは世の中行かないものらしい。

「ニェポ!おめえって奴は!海を舐めるなってあれほど言い聞かせたのにまだ足りねえか!」
「スィンパさん!遠征もせずに一日遊んでたなんて言い訳にもなりませんよ!!」

船着き場で待っていたのは、今日の仕事を終えたデーボと、ライセンス取得の申請を任せていたリトバだった。
ニェポとデーボ、スィンパとリトバ、2組に分かれて叱咤の声が波の音に交る。
「1週間船出禁止だ!お前の船は陸に上げとくからな!」
「ええええ」
「エルナさんにはしばらく実家に帰っておいてもらいますからねっ!」
「ひぃぃぃ」
保護者というものは、上手な罰の与え方をするものだった。
「ふん、話は家に帰ってからじぃっくり聞かせてもらうからな」
「うちの者が済みません」
逃げないようニェポを肩に担ぎあげたデーボにリトバが声をかける、あれ似たようなことをギルドの人にも言われたことがある気がするぞおかしいな。
「うちのガキも海に対する心得が足りんかったようだ、悪かったな」
『申し訳ない、いえいえこちらこそ』合戦の合間に、ニェポがスィンパに見えるよう、小さく船を指差した。
リトバがデーボに頭を下げている合間に、こそこそと船に戻ってみる。
粗雑に巻かれた浮き輪ロープの下、やたらごわごわした毛の塊のようなものが山にして置いてあった。
拾い上げて見ると、刷毛のような外観。
しなやかな毛、硬い質感、そこにある一本一本が容易くは折れない強さを秘めているのが分かる。
噂に聞くままの特徴を備えたそれは、まごうことなく大海獣の髭であった。
「!!!!!!!」
うわあ忘れてた!と思わず叫びそうなところを堪える。
口の中が大惨事だったらしいし、幾つか取れてしまったのだろうか。
とにかくも、わさわさと下衣に突っ込んで、しれっとした顔で戻った。
「何を変な顔してるんですか、泣いたってエルナさんには会わないように伝えておきますからね?」
「やだ酷いそれは泣きたい」
「はいはい」
呆れ顔で「ファームに帰りますよ」というリトバに「ちょっとだけ街に寄ってすぐ帰る!」と返事した。
とりあえずは、暗くなってきたので妙に膨らんだ下衣には気付かなかったらしい、ありがたいことだ。
「にゃふ・・・」
一仕事終えた、と言わんばかりの橙を連れて、スィンパはツェーテの元を訪ねに走って行くのだった。

店じまいの準備を進めるツェーテに声をかけて 下衣の内側をごそごそやった時には悲鳴を上げられたが、どうにか誤解を解いて、大海獣の髭を提出する。
「10個・・・ぴったりですわね、1日でよく集まりましたこと!」
「うへぇこれだけ量があって10個なんだ・・・ギリギリセーフ過ぎるでしょう・・・」
ツェーテは満足げに大海獣の髭を触り、眺め、これから作る服のことを考えているようだった。
「そうだ聞き忘れてた。これは何の材料になるんだっけ?」
「よくぞ聞いて下さいました!これは、私の新作、リペティ装備の靴になりますのよ!」
「新作かぁ、うん、え、新作?靴?」
嬉しそうに懐からデザイン画らしきものを出すのを受け取れば、茶色のカッチリしたブーツの絵が描いてあった。
「装いは人を表しますわ、敢えて何も着ないことで表せるものだってあるでしょうけれど、私だって服飾の専門家ですもの、貴方の満足する装備を作ってあげたいじゃない?」
要約すれば、何としても靴を履かせたかったらしい。
「万年裸足っ子の私が満足する靴とな・・・いやあでもこれ暑そうだし私の恰好には合わな・・・・・・」
そこで、はたと気付く。
「いやいや、ちょっと良い話混ぜて誤魔化そうったってそうは問屋が卸さないよ?こんなガチガチのブーツが私のために作られたとは思えない!」
「あらら目ざとい・・・いやねぇ、本当のところ銀永華はミリーアさんに都合して貰えましたけれども、どうしても大海獣の髭が手に入らないものですから、新作の材料調達にちょっとご協力いただいたと申しますか」
抗議すれば、悪いですわねーっとばかりに、あっさり白状するツェーテ。
してやられたとでも言えば良いのか、ひとまずツェーテの笑顔にいろいろ許しそうになりながらも、当然の権利を主張しておく。
「うん、で、協力したお駄賃は?」
「がめついですわね、苦労して手に入れれば靴も履くかと思いましたのに・・・頑張ってくださったのは確かですし、代わりに貴方の気に入りそうな物・・・そうですわねぇ・・・・・・」
ツェーテは、仕立て工房に入り作業机の上に置いてあった物を取る。
その手には赤い・・・・・・眼鏡、というにはなんともアグレッシブなデザインの代物。
「これはレッドグラス。ミリーアさんがブリーダーさんたちから買収した素材でティッキさんが作ったもの・・・を、参考に私が作ったものですわ」
「ほ・・・ほう・・・良いなぁそれ」
普段から装備して歩くには少し勇気がいりそうだが、なんというかこう、現実離れっぷりが丁度良くミステリアスでデンジャラスかつ・・・とりあえずぶっ飛んでいた。
人のピンチに颯爽と現れても、ピンチになる前に来いよ!という突っ込みも無かったことにできそうなインパクトを感じる。
「ティッキさんの作ったものとは素材が全く違うので、装備しても何も効果がないのですけれど」
「あららその残念感がまた素敵!いただきまっす!」
「・・・・・・何の効果も無くてよろしければ、これも持って行きますか?」
失敗作を喜ばれて微妙な顔をしながら、ツェーテは無造作に引っかけてあった布の塊を手にとって広げた。
スィンパの愛用する夏の下衣・・・と同じ形状ではあるが、ツェーテの売るものとは色が違う。
なんというかこう、柔らかさが無くなって、存在感が増した感じとでも表現しようか。
「こちらも私が作ったものですが、・・・素材を使いこなすのは難しいですわね、外見以外は市販するものと同じ物になってしまいましたわ」
服飾の専門家にも真似できないティッキの凄さを垣間見た気がした。
「とっておいても仕方ないので・・・お好きにお持ち帰りくださいな」
「ではお言葉に甘えまして」
いそいそとその場で着替えにかかったスィンパの足に、公序良俗の違反を懸念した橙が牙を突き立てて制止する。
苦痛の叫びは夜のユタトラに響いて、波の音にもみ消された。

今日という日は、大海獣の口を掃除しただけで過ぎて行く。
その日もユタトラ諸島は、いつも通りなのであった。



一日海原を航海して娘の手に入れたるは、
失敗作のレッドグラスと、色を違えた夏の下衣。
こんな装備で魔砲少女に助力出来る日が、はたして、来るのでしょうか?
いぢめる神さまと、いぢめられる神さまにしか、分からない。




エンディングテーマ 『スィンパのパラダイス』
参考:タケシのパラダイス
作詞:スィンパ
歌:スィンパ

【次回予告】
にゃ         字幕:(橙です。)
にゃにゃん、あにゃぁ 字幕:(ツェーテさんのお遣いの駄賃に、主人は必要なものを手に入れてしまったようです。)
にゃん、にゃん、にゃ 字幕:(レッドグラスの主人もですが、魔砲少女に縁のあるらしいあの男性も大概変な人ですよ。)
にゃふー。      字幕:(正直のところどちらとも関わりたくありませんね。)
うにゃんにゃー    字幕:(そしてついに魔砲少女とこっそり遭遇してしまうようです。)
んにゃ、にゃーにゃう 字幕:(次回、第二話(夢) 紳士的に出くわせば)
にゃふん       字幕:(とても、疲れます。)



--- ア ト ガ キ ---



装いを整えなければ、表舞台に立つこともできない程度の一般人です。
魔砲少女ではないスィンパは自力でそれらしい装備を手に入れ・・・
え?肝心の魔砲少女?りぷるんはどうした、って?
・・・・・・てへ☆

そんなわけで、魔砲少女まじかる☆りぷるん第一話と第二話との間、暴走少女スィンパ第零話の直後のお話でした。

ニェポの船だとか、相棒となるモンスターだとか、その辺は全く預かり知らぬ世界の話なので、適当に書かせていただきました、酷い!
デーボのレシオネだって、クレハザ岬で出会ったって話ですもんね。
ニェポだって、相棒となるモンスターとそんな風に出会うことがあって良いはずだ!ということにしました。
こうして、スィンパに付き合わされるニェポの受難の日々が始まるのであった。

MFLの中で明らかにされていない部分は、二次創作をしようと思った人の数だけ、ニェポと相棒モンスターの出会いがあって良いと思っています。
私の場合はまぁ、こういうことで!ばはは

書く必要が無いかもしれない場面を削ることの難しさに全私が泣きました。
いいえ、泣いております、現在進行形で。
ユタトラの生活事情妄想を、表現したいことだってある。
しかしそれが蛇足、ウワァァァ。

ところで、自分で白紙にしておきながら、この文章に気付いた人がどれくらいいて、気付かなかった人がどれくらいいるのかが気になって気になって、辛い一週間でした。
まぁ、さっぱり宣伝されちゃったので、一部の方々には気付いて頂けたことと思います。
ちなみにこのページを印刷して火であぶると・・・燃えます。
気を付けてください。

第一話、やっと本編が始まったと思わせておいて原作との絡みなし。
完結はまだ・・・遠い。
それでは、また次の白紙もどきにて。







ここから先は、霞んで読めなくなっている。

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