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白紙四枚目 [白紙]

そこにあったのは、何の変哲もない或るブログの、白紙のページ。
4枚目、いちいち目を通してみる貴方もなかなか物好きです。
もしかしたら、この仕掛けに いま初めて気付いた人も、居るのかもしれませんが。
貴方がその白紙に指を走らせると、意図して隠されたと思しき文字が浮かび上がって来ました。
なにやら一度書き直した跡がところどころに残っています。
もしも貴方が公開された直後にこの白紙を読んでいたら、見覚えの無い文章や少し変わった言い回しが見つかるかもしれません。

きっと誰も得しないけれど、それ故に書いてみたかった。
書けば書くほど色が変わって・・・
うまい!
\テーレッテレー/

気を付けてほしいことには二つ、
魔砲少女まじかる☆りぷるん第三話と深く関連しておりますので、そちらを先にお読みくださるとより楽しめるかと思います。
また、本人に許可なく当作品に登場させられている方がいらっしゃいます。問題がありましたらお手数ですがコメントなどでお教え下さるようよろしくお願いします。

当作品は、MFLの世界を舞台にした、偉大なる先駆者やみなべの著作『魔砲少女まじかる☆りぷるん』の二次創作であり、
MFL、魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の世界観や雰囲気といったものをぶち壊す可能性に満ちております。
特に、ニェポやシェマなど、NPCとのやりとりが多く、貴方の愛するキャラクターたちのイメージを台無しにすることが予想されます。
この作品を読み進めるにあたり、細かいことは気になさいませんよう心よりお願い申し上げます。

また今回は、蛇足な描写に満ち満ちておりますが、というか蛇足ばっかりのお話ってこんなことになるんだなぁ・・・これは・・・
蛇足だらけなお話は、こんな具合に仕上がるという悪い例として、どうぞ。
『たかが二次創作』を逃げ口上に、当作品は好き勝手暴走しております。
今回公開15分前まで文章を弄っていたので、訂正があったらごっそり変わります。
改行作業を含めて結局1分遅れてしまったことが悔やまれます。
今後の話の流れによって、ある人物との面識があるかないかの変更が入るかもしれません。
細かいことは気になさいませんよう、重ね重ねよろしくお願い申し上げます。



--- キ リ ト リ ---



『暴走少女スィンパ』



オープニングテーマ『誰も噂しないジェントルガール』
・作詞作曲 暴走少女スィンパ制作委員会
・歌 ミルク・プリンエル・バケット




第三話(楽)紳士的に踏み出せば




町外れの病院の待合室、白い部屋に幾つか据えられた淡い色合いのソファの真ん中をどっかり陣取って、スィンパは本を開いていた。
「彼は決意と熱意を瞳に宿し、腰の扇風機を回す・・・」
堂々と音読するが、朝っぱらの外来受付に人気はなく、迷惑そうなのは膝の上で寝ている橙だけ。
窓から流れて来た風が、待合室まで薬の臭いを運んで来る。
ヴァシアタの薬がヴァシアタでよく採れる素材を原料とするように、ユタトラの薬もまたユタトラでよく採れる素材を原料にしている。
ムステ種の抜け殻や森水がその代表だが、その味たるや渋いやら苦いやら。森水だけに臭いは悪くないのだが。
それでも条件反射というのか、薬の臭いに息を詰まらせてから続きを読み始める。
「手を大きく振りかざし、彼は静かに唱える「変、身・・・!」ジャキーン!・・・おー・・・!」
変身の持つ意味は大きい、日常の状態からの華麗なる転身、立ちはだかる困難に屈しない頑強かつ機動力のある形態への変貌、それは時に風格のあるものであり、時に愛らしいものであり、見る者の心を惹きつけてやまない。・・・言葉で飾れば飾るほど嘘っぽくなってしまう。大事なことを一言で言ってしまえば浪漫なのである。
それにしても子供向けの癖に凝った描写で、改めておぉー・・・と声が漏れた。
「お薬でお待ちのスィンパさーん」
「ちっ、良いところで・・・」
呼ぶ声に渋々、本を棚に戻して受付に向かう。
入れ違いに誰かが、その本を持っていくのが目の端で見えて、続きが読めないのを残念に思った。
「大型のモンスターの口の中の傷薬ということで、こちらをご用意しました。御代金は5000spとなります」
「ご・・・ごせん・・・・・・?」
大きなモンスター用ということで、量が多い分高くつくことは分かっていたが、しかし予想していた金額を軽くオーバーする。早起きしたついでに何か殊勝なことでもしようと思った私が馬鹿だった。あぁいや、馬鹿なのは元からだった。
心で泣きながら、いつかユタトラSEEDのDVDボックスを買おうと貯めていたお金を、腹巻の内側に厳重装備していた財布から出して渡す。
よほど渡したくない気持ちが顔に出ていたのか、受付の人が申し訳なさそうに受け取り、勘定は済んだ。

病院から向かうは町の方向、その道すがら、スィンパは橙に話しかける。
「あの本から学んだことがある」
橙はスィンパの肩の上、うつらうつらしながら頷く。
「ヒーローは変身するのに服を着替える時間が速い、超速い、変身、ジャキーン!で済む」
橙が眠そうなので肩から降ろして手で抱えてやると、グルグル喉を鳴らした。
「一方私はいちいち着替えて・・・脱いだのを畳まなきゃいけないんだ、登場のタイミングは一瞬だもんなぁ・・・・・・もう色違いの夏の下衣が標準装備で良いかもしれない。上衣も脱いじゃうかな・・・或る意味斬新な装いだと思うんだ上が下着って。そうするとあとはレッドグラスかけるだけだしお手軽簡単・・・ってどうよこれ?」
「にゃん」
「・・・うーん」
橙のそれは、意見か、はたまた寝言か。
曖昧に頷いて返事の代わりとし、遠くに見えてきた町の門を見据える。
もう一つ学んだのは、やはりヒーローは諦めない、ということだ。
諦めないヒーローに、ピンチを救うキャラクターなんて要らないかも知れないと少し思った。

街に入って、長老衆の居る場所へと向かうと、集会所は大工事の真っ最中だった。
普段は集会所に納められている物品が外に置かれており、3人の長老は良い機会とばかりに、しまい込んでいた書類に目を通したりしている。
そこはまるで年末の大掃除のような騒ぎで、噴水の辺りは普段以上の活気に満ち、品物を売買する人々の声も高らかに街を賑わせる。
ふらふらと人々の間を縫って、ようやく長老たちの元へと辿りつけば、太くしっかりした真新しい角材が人ごみを割って、スィンパの目の前を通り運び込まれて行った。
多分先日折られた柱の代わりになるのだろう、集会所の中からボバンが大工仲間に指示を飛ばすのが聞こえた。
ふと思い出して見れば、集会所以前に炎上した倉庫の方は既に元通りに立て直されており、ボバンの仕事の速さに感服せざるを得ない。
「まぁ、ユタトラ諸島に拠点を作り始めたときの仕事量は、まだまだこんなものじゃなかったからな」
ぽかんとした顔できょろきょろするのを見ていたのだろう、シェマが声をかけて来た。
「拠点作りねぇ・・・言われてみれば、出来たばっかの街なんだった」
人々の暮らす拠点を一から作った男からすれば、倉庫の一つくらいカカカッと作ってしまえるものなのだろう・・・・・・多分。土木事業に詳しくないので何とも言えないが。
シェマは手元の書類に目を戻す。書類、そうだ、それで思い出した。
「ウル婆ちゃん!」
「なんじゃ馬鹿娘」
この前 頭をぐりぐり押し付けたことをまだ根に持っているらしい。
エルナさんの祖母に、そんなご無体な呼び方をされるということには、なかなかグッとくるものがあった。
って変なところで喜んでいる場合ではない。
「ユタトラ諸島に住む人たちの名簿って、閲覧出来たっけ?」
「お前さんにしては珍しい物を見たがるのう、生き延びた知り合いでも探すのかえ?」
「まぁ・・・そんなところかな」
適当に誤魔化して、運び出された荷物の中からウルが引っ張り出した分厚い資料を受け取る。
ヴァシアタ、ガランカナン、シディララマ。
3つの地域の人々の名前と職業が、この島にやって来た順に書かれている。
地べたでも構わず座り込んで新しいページから一枚ずつめくって行くと、自分の名前が出て来る前に目当ての名前があるのを見つけた。
【リプル ヴァシアタ出身 モンスターブリーダー】
他の名前との並びから見て、この前認定された新人ブリーダーであることが分かる。
シェマが言っていた名前、ヴァシアタ出身、そして新人ブリーダー。
何か、もっと詳しいことが書いてあることを期待したが、書いてあるのは個人ファームの場所くらいだった。
・・・・・・別にその家に干された下着の色とかに興味はない、ないぞ、ないからな。やはりどちらかというと洗濯されたものよりもやはり脱ぎたt いや落ち着こう、エルナさんという女性がありながら揺らいではならない。
眠っていたはずの橙が、煩悩を察して首元にかじりついてくるし。これは割と本気で息の根を止めようとしてはいまいか、気のせいだろうか。
とりあえず魔砲少女の正体については、これ以上分かりそうになかったのでこの辺にしておくとしよう。
・・・・・・。
分厚い資料を閉じかけて、止まる。
生き延びた知り合いなんて、居るのだろうか。
期待するわけじゃないけれど、と心で言い訳しながら、1ページずつめくって探し求めるのは故郷の人々の名前。
幼い頃は一緒に悪さをした友人の名、家畜の世話の仕方を教えてくれたお向かいのお爺さんの名、家から閉め出される度に世話を焼いてくれた隣の家のおばさんの名、・・・望みは薄いと知っていてもなお探さないではいられない、家族の名。
いつの間にか没頭して、時間の感覚が薄れ、
ふと、妙に字が黒く浮き出して見えるなと思ったら、日が高くなり強くなった日差しがギラギラと名簿を照りつけているのだった。
道理で、目が痛い訳だ。
「スィンパや、そろそろ、もうええじゃろう」
いつになく優しい声でウルが言う。その声の柔らかさが、悔しくもなかなか胸に染みた。
名簿も既に最後のページに近く、デーボやらミリーアやら、この島でよく顔を合わせる人々の名ばかりが連なっている。ここに名前があって、今まで会ったことがないわけが無いだろう。
最後にデーボの家族の名の連なるあたりを目に留めて、分厚い名簿をばふんと閉じた。
はーっ、と深くため息をついて、重い資料をウルに指示された場所へと戻す。
実にはならなかったけれど、調べ物をしただけでなんだかひときわ賢くなった気分で、ぐいぐいと肩を回し、
そしてやっと気付いた。
「シェマさん何処行った?」
「丁度半分まで名簿を読んだ頃じゃったのう、ヴァシアタの娘っ子と一緒に出かけたわい」
「なん、だって・・・?」
ウルの答えを聞いて、真っ先にリプルこと魔砲少女の可能性を考える。
これが逢引だったりしたらそれはそれで楽しかろうが、シェマのことだ、長老代理の勤務中に多分それは無い。
「もしかして蝶の仮面を付けてたりは?」
「付けとった、付けとった。何処へ行ったのかのう、何か言っておったような・・・」
「うわぁヒントあるの!思いだして婆ちゃん!」
「えぇい静かにせんか、確かトリタッカの近くの・・・・・・」
行き先は決まった、あとは船を出して向かうのみ。
・・・・・・長老からのお達しでもなければ、遠征でもない目的地に、一体誰が船を出すのか?
そんなのは、決まっていた。


ざぶんと波を割る帆船が一隻、ユタトラに近い或る島を目指す。
「おいら、何やってるんだろう・・・」
「私の口車に乗せられて、近所の島へ船を出してるんじゃないかい?」
「・・・まぁ、そうだね」
さらに詳しく説明すれば、今朝がた買って来たモンスターの傷薬をちらつかせながらのスィンパの強引な誘いで、デーボの一週間航海禁止令を踏み倒したのだった。
「まー、ちゃちゃっと帰ればバレないって!よゆーよゆー!」
楽観的に笑うスィンパに、ニェポは、はぁとため息をつきながら、水に浮かべた磁石の針と海図、そして目視できる島々を見て進路を確認する。
「トリタッカなんてすぐそこじゃん?そんなに気を張るもんなの?」
「海を相手に油断はするなって、いつもとーちゃんに言われてるからね」
したり顔で言うニェポを眺めていると、チラリと、ユタトラ諸島民名簿の、ニェポとヒューリとデーボ、その上にも下にも、女性らしい名の無かったことが、脳をかすめた。
多分、お母さんは・・・・・・いや、多分知っても仕方ないことだろう、それに案外3人とは時期がずれてユタトラに来たのかもしれない。
とりあえずはヒューリさんの母親なのだから相当美しい女性なのだろうと思っておく。
その間も橙はくぅくぅ眠りこけていて、ニェポが心配そうにチラッと見た。
「そのアニャムー、橙・・・だっけ、寝てばっかりじゃない?」
「まぁ歳が歳だから・・・歳だからねぇ・・・」
集会場での魔砲少女の立ち回りを見た日からだろうか、隙あらば寝るようになった橙である。
何かあったのかもしれないし、もしかしたら単純に、残された時間が迫っているのかも分からない。
食欲はいつも通りだし、そんなに心配はしていないけれど。
ニェポみたいな子供の前では吐けない弱音だが、不可避の別れがそう遠くないところまで迫っているのが分かっていながら、お別れする心の準備が出来ているとはいえないのだった。
準備をする時間のあるお別れも、それが出来ない突然のお別れもあるけれど、橙とのお別れは準備出来る種類のお別れなんだろう。
いつも騒がしくするスィンパが静かになれば、自然船上に言葉はなくなり、
船は低い塔がそびえるトリタッカの傍の島へと向かうのだった。


その島は、取り立てて何かがあるわけでもなく、ただ自然豊かなだけのありふれた島。
背の高い木々が茂り、木々の根が張る地は雨水を豊富に含んで、それは高い場所から低い場所へと流れながら、小さな川を成す。ユタトラもそうだが、川の途中に高低差の激しい場所があるとそこには滝が出来、そこからまた川となって流れて行くのだった。
小さな相棒を肩に乗せて駆け抜けながら、島の自然を観光する。
こんな島に誰か人が居るとすれば、何かをしに来た魔砲少女とそれを追っかけて来る人くらいのもの。
遠目に白く煙るのが見えたので、何処かで焚火をしている人が居るはずで、それが探し人に間違いないだろうと見当を付ける。
「さぁ、橙どっちだ!」
「にゃー・・・」
そんなわけで鼻の利く橙に煙の元を探させて、やる気なさげに指される方向へと進んでいた。

その調子でしばらく行くと、木々の少し開けた場所で、テントと焚火の番をする人の後ろ姿があるのが見えた。
魔砲少女?いや、違う。
「む・・・」
魔砲少女を追うにあたって、会いたくない人ランキング堂々のトップを飾るシュマのクエスターハットが目に入る。
どうやら近くに魔砲少女の姿は見当たらないし、わざわざシュマに見付かってやることもないだろう。
迂回して探そう、と後ろに下がる足に何かが引っ掛かった。
声はあげずに済んだものの、そのままバランスを崩してどしゃっと派手に尻もちをつき、肩の上の橙は抗議するように唸る。
何事かと引っ掛かった足の先を見れば、木の根が土から顔を出しているのが分かった。
進む時には運よく踏み越えたが、戻る足ではそう上手くは行かなかったようだ。
「また君か・・・」
見上げれば、目の前にシュマ。
スィンパは、見付かりたくないと思った次の瞬間にはフラグは回収されるものだと学んだ。
「魔砲少女の居場所を吐いてもらおうか」
やれやれと言いたげに、蝶の仮面の向こうからこちらを見下ろすシュマに対して、レッドグラスを装備して立ち上がり土を払いながら偉そうに返す。
言ってから気付いたが、なんだろう、まるで悪役のような台詞だなぁ。
「お探しのリプル君なら・・・今さっき始まったところだ、ほら、聞こえるだろう」
耳を済ませれば、何処か遠く・・・ちょうどキャンプ地の向こう側からか。
聞き覚えのある雷撃の音に、何故かまた聞き覚えのある突風の音。
「もう始まってんじゃん!」と慌てて音の方へと駆け出しそうになったスィンパの前を、しかしシュマは遮る。
「・・・シュマさん、黙ってそこを通してもらおうか」
「そのセリフに『はいどうぞ』と応える人は居るのかい?」
相変わらず悪役っぽい台詞を言えば、至極もっともな意見が戻ってきた。
全く分の悪い勝負、こちらは急いでこの場を切り抜けなければならず、シュマは時間を稼げればそれで良い。
じりっと、対峙している距離から出来る事を探す。
「橙!ムーンスパイク!」
言いながら指示具を振り上げようとするも、肝心な返事がない。
「・・・にゃー」
一拍遅れて橙がやる気無さそうに答えた。
こんな時に何を、と言いたいところだが、橙の性格と合わせて考えれば言いたいことは一つだろう。
「相手のモンスターが不在ではフェアじゃないってか!ごもっとも!!・・・よしシュマさん、一つ勝負して、私が勝ったらここを通してもらおうか」
「驚くべき変わり身の速さだな・・・」
「なんだかんだ言って時間稼ぎが目的でしょう?こっちはとっとと片づけたいの!」
言いながら思考を巡らせる。
モンスターの力比べをしたいところだったが、シュマのモンスターがお留守番ではどうしようもない。
じゃんけん?運の勝負ではつまらないじゃないか。
他に何か良い物は無いか、良い物は。
ふと視界に入ったのは、カレーを作るのに使ったらしい包丁と、使い残しのジャガもどきが幾つか。
「よし、ジャガもどきの皮剥き競争で!・・・・・・ハッ」
言った直後に、自分の不器用さを思い出すなんてことは、よくあることだった。
「・・・君が言い始めたんだから、撤回は無しだぞ?」
いつのことだったか、壊したニャー人形を直させようとするも、渡した材料が燃えるゴミとなって戻ってきたのを知っているシュマは、うっすら笑って釘を刺す。
「ぐ・・・ルールを細かく決めるなら今の内だよ、あ、3秒以内に決めてね」
「ならばこうしよう、ジャガもどきの『皮全体を先に剥いた者』の勝ちだ。結果として皮が残らなければそれで良い」
思いの外、素早くルールを指定するシュマを、スィンパは訝しげに見た。
「そのルールにした理由を訊いても良い?」
その問いに、肩をすくめてフッと笑う、蝶の仮面。
「・・・皮を薄く剥けた方の勝ちにするよりは、まだ勝機があるだろう?」
舐められたものであるが、舐められるだけの腕前なので何とも言えなかった。

ええい、考えろ考えろ、どうすれば器用な人より速く皮が剥けるのか?
皮剥き勝負なのに目の前にまな板を用意してしまったりしつつ、スィンパは忙しく思考する。
下手に急いでも手を切るのがオチだ、手を切ってでも速く剥ければ良いが、それが出来たら苦労はしない。
当然今から練習をする暇などなく、つまりは正攻法では太刀打ち出来ないということ。
ならば、シュマへの妨害を試みるか?
言葉責めなんて高等スキルは持ち合わせていないので、蹴ったり突っついたり・・・いや落ち着こう、包丁を持っているのにそれは危ない。
さてどうするか、と、手にしたジャガもどきを見つめる。
とにかく速く皮が剥ければ良いということは、それこそ薄く剥く必要が無いということで、そこだけは救われたなぁと思う。
相手はこっちが下手くそなのを知っているんだから、多少厚く切ってしまっても許されるだろうし・・・・・・
ごとりとまな板にジャガもどきを置いた瞬間、その動作と思考が、重なる。
刹那、閃くものがあった。
「あ」
つまり、そういうこと。
思わぬ勝機を見つけて、ごくりと唾を飲む。
その様子に気付くこともなく、シュマはもう一方のまな板の前に陣取った。

両者、右手に包丁、左手にジャガもどきを持ち直して、立つ。
スィンパはジャガもどきから目を離すことなく、相棒に声をかけた。
「橙、審判任せた」
「待ってくれ、それは君のモンスターじゃないか」
「主人には無駄に厳しい子だから大丈夫だって」
橙の、疲れます、とても。といった表情に何か通じるものがあったのだろう、シュマはそれ以上は何もいわずに包丁とジャガもどきを握った。
「にゃー」
二人は息を詰めて開始を待ち、
「にゃっ!!」
ポンッと橙が飛び上がって鳴くのを合図に、二人はジャガもどきに刃を当てる。
ショリショリと軽やかに音をさせ、薄く、そして速く、余裕の表情でジャガもどきを剥いて行くシュマ。
一方スィンパは、

トン、トン、

明らかに皮剥きならざる音をさせていた。
その音にチラリと様子を見たシュマは、目にした光景に慌てふためいて真剣な顔でジャガもどきを剥きにかかる。焦りが手元を狂わせたのだろうか、短い呻き声に、包丁がまな板の上に落ちる音が続いた。
スィンパは目の前の大仕事に手一杯でそれに気付きもしない。
その手元では、皮を剥かれるべきジャガもどきが、まな板の上でごく当たり前のように切断されていた。
スッパリと皮の部分が可食部分と一緒に切り離されれば、後には綺麗な面が残る。
その要領でジャガもどきを歪な直方体に切り出していく。
・・・皮・・・剥き・・・?審判は、死んだ魚のような目で、その光景を見ていた。
危なげな手つきで、しかし素早く、
トン、と最後の一面を切り離して、
一仕事終えたとばかりに大儀そうに息をついてから、どやっとシュマと橙を見たのだった。
「にゃーっ!」
橙の終了の合図に、置かれた二つのジャガもどき。
スィンパの方は四角く切り出され、皮の部分は残されておらず、
シュマの方は元の形を保った見事な剥きっぷり、しかし、惜しくも皮の残る部分が見えた。
シュマの決めたルールに従えば、勝者は明らかである。
まぁ、確かに、一応は、・・・、
「にゃ・・・ふ・・・」
橙は頭を抱えた。
白黒つけるとするならば、・・・それでもグレーだと叫びたい。
しかし厳格なルールが無い以上、それは認められる手段の一つだった。
苦しげに橙は、スィンパ側の手を掲げてその勝利を称える。
何か言いたげなシュマが発言する前に、スィンパは先手を打つ。
「ルールはそっちが決めたし、橙が審判になることも認めた。反論は?」
「ない、が、しかしこれは皮剥きとは呼べな・・・」
「よっしゃ、完全封殺!今回は邪魔すんなよう!」
人の話など聞かないで、ダッシュでそのキャンプ地を走り去る。
取り残されたシュマは納得いかないながらも、勝負に応じて敗北を喫した以上は追うこともできず、残されたまな板に目を落とした。
「・・・・・・ああ、途中から真似してしまえば良かったのか」
皮剥きの常識に囚われていたことに気付いたが、対戦相手の常識破りっぷりを見習うのはどうかと思う。
残された2つのジャガもどきを薄く彩る鮮血を見て肩をすくめると、まず自分の指先の傷を洗ってから、血には触れないよう注意深い手つきで、それらを汲み置いた水で洗い始めるのだった。


包丁で切った傷を舐めながら、がさりと茂みを抜けかけて、スィンパは立ち止まる。
目前の茂みの向こう側は、ひどくさっぱりとした景観になっていた。
さっきまで森であったであろうその場所には、一面に木々を刻んだウッドチップと、青い葉で彩られた平原が広がっている。森林の匂いの濃いのは、その匂いの元が粉みじんにされているからだろう。
現在進行形でその平原は広がっており、遠くからでも耳に聞こえるほどの唸りを上げて、風の刃が隙間なく放たれていた。
向かって左側に見えるその風の刃の主は、炎の長杖でモモテロに指示を送る少女。
「ん、あれ?」
目をこすってまじまじと見直すが、見間違いではなさそうだ。
「・・・橙、あれってもも氏じゃね?」
「にゃん・・・」
凄く、見覚えのある人なのであった。
ダスクシュリンプを大量に譲ってくれたりと素敵に気前の良い人物だが、それをひたすら食べさせられた橙はなんだかげんなりして見えた。
思えばリプルという名のピンクの娘も魔砲少女だが、ももの姿も普段と違い、魔砲少女と言えそうな衣装になっている。これは先日のちびっ子にも同じことが言えた。
魔砲少女ってどういう基準でなるものなのだろう、謎である。
考察はさておき、風の刃の向かう先を探せば、スィンパから見て右側、平原と森の境目近くの木の後ろに身を隠す人影が見えた。
その傍らのライガーは、いつぞや集会所で水の壁を破ったあの光線を幾筋も放つが、風に巻き上がる土だか木端だかに遮られているようだ。
もしかして防戦一方の膠着状態?
これは早速出番なのかもしれない。
「橙、準備OK?」
「にゃっ」
最近眠ってばかりの橙には珍しく、しっかりとした返事が返って来た。
こういった有事の際にはきっちりと応えてくれる、頼れる相棒。
衣装は、上にヴァシアタ伝統の肌着、下に色を違えた夏の下衣、ガッツ総量的には隙だらけであるが、抜かりは無い。
最後に相棒と顔を見合わせて、行けることを互いに確認し合う。
目の前には出番があるだけ。
打開する案も特には無かったが、自分という新要素が膠着状態をどういう状態にか動かすことはあるだろうと適当に考えた。

ともあれ
さあ、ようやく来た出番に、初仕事だ。
ざ、と、茂みから一歩踏み出しつつ、
目を閉じてレッドグラスのずれを直し、名乗りを上げようと前を見直した。
その間ごく2~3秒。

目を離している間に目前まで迫っていた光線を避ける術も無く、
モロに額で受け止めて、ドバサバサッと騒がしく後ろ向きに倒れ、茂みの中に叩き戻された。
立ちくらみでも起こしたように視界は揺れ、頭蓋の裏側に流れ星が幾つも流れていく。
「うぉぉ・・・エルナさん・・・そんな、はしたない・・・」
どさくさにまぎれて何の幻を見ているのか、橙はガブリとその頭をかじっておいた。
魔砲少女二人とスィンパの居場所とは距離があり、真剣勝負の真っ最中の彼女らが、茂みからチラリと姿を現しただけのスィンパに気付くことはなかったようだった。
ぐたりと伸びてしばらく動かなかったスィンパだが、身体を動かす余裕が出て来たらしく、額を焼いた熱さに悶えて、じたばたバンバンと地面を転がる。
「あつつ・・・しかし、どう、なってんだ、これ」
額の真中を焦がして、スィンパはどうにか身体を起こした。
流れ弾だろうか、対峙する二人を真横から臨む位置なのに、どうして?
痛恨の一撃を貰っていても魔砲少女たちの対決の行く末は気になるもので、ふらつきながら四つん這いのまま茂みから見れば、そこに見た光景ががまさに解答。
5本の光を束ねた魔砲が土煙に向かって放たれ、
土煙の辺りで大きく湾曲し、ももへと向かって直進。
そのまま直撃して、ダスクシュリンプを贈ってくれた気の良い友人が空に向かって吹っ飛んでいくのが見えたのだった。
多分、自分の額を焼いた光線は、あの土煙に大きく湾曲したものだったのだろう。向こうは気付いていまいが、よもや助けようと思っていた魔砲少女に攻撃されるとは。
目の前で一瞬で決着がついたのを見て、脱力して地面に寝転ぶ。
一方で、吹っ飛んで行った友人の着地先が心配であったが、ギャグ回では高いところから落ちても地面に人型の穴が出来るだけで死なないのだと婆ちゃんが言っていたのを思い出して、安心した。

・・・・・・いやいや。
「結局、また登場し損ねたってことか」
「にゃー・・・」
「登場しかけて気付いたけれど、大変なことを忘れていたんだよね」
「にゃ?」
「登場するときの決め台詞を考えてなかった」
「にゃふ・・・・・・」
だんだん残念な表情になる橙に、次のチャンスまでの宿題だなと意気込むスィンパ。
完全に一件落着してしまったようで、魔砲少女・・・ことリプルが、ライガーを引き連れて森の中へと引き返していくのが見えた。
「今回も残念だったけどまぁ、帰りますか!」
めげない姿勢が取り柄の主人に、にゃぁと返事して来た道を戻る。
まだまだ橙の苦労は続きそうだった。

森を抜けて、海に漕ぎだす、帰り道の船の上、
早速登場台詞の会議が開かれていた。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」
「ちょっと壮大過ぎるなぁ」
「追跡少女すとーく☆すぃんぱ、只今参上よ!」
「いろんな意味で駄目だと思う」
「これから死に行く者に名乗る名など・・・無いッ」
「そこは名乗らなきゃ、というか殺す気なんだ!そんな鬼気迫る意気込み要らないよ!駄目に決まってるでしょ!?」
こんな具合でなかなか決定に至らないのではあるが。
不意にスィンパがすくっと立ちあがり、船がぐらりと大きく揺らいだ。
「決心した」
遠くに見えるユタトラを臨んで言うその顔は珍しく真面目で、ニェポはツッコミの言葉を失う。
「町で噂のマジカルキャノンガールは、ピンチにも諦めない」
あれは自分の手に負えなくても最後まで諦めずに玉砕するタイプだ、多分。
突然の独白についていけない様子のニェポに、無駄に勝ち誇った顔で言い渡す。
「つまり私も、マジカルキャノンガールが諦める日が来ることを、諦めずに追いかけ続けてやるってことさ!彼女が諦めなくったって、玉砕しそうな展開になれば出番はあるわけだしね!」
専売特許の空元気、2度に渡って何の役にも立たなかった事実には割と打ちのめされながらも、後に退かないために宣言した。
宣言だけでは気持ちが足りなかったのだろうか、ポーチを開け放って、綺麗に畳まれた普段着の夏衣の上下を空に放る。
「さらば青き日々よ!私は前に進むぞう!」
上は肌着、下は色違いの夏衣姿ではっはっはと笑う、その横で、ニェポの表情がこわばった。
その視線の先には、ユタトラに帰るところらしい、大きなレシオネの引く遠征船。
スィンパの手によって空に放られた夏衣が、潮風に吹かれてくるくるとそちらに流されていき、その船の大柄な操舵手の頭にバサリと引っ掛かった。
もがもがとその操舵手は顔から上下の夏衣を剥ぎ取って、周囲を見回し、はたとこちらに目を留める。
横でニェポが「ひぃぃ」と鳴くのを聞いて、おやおや可哀想にと半ば人ごとのように思いながらユタトラの船着き場を見れば、そっちにはリトバさんがこっちを見て立っているのだった。

以下、何処かで見た光景再び。
その夜、夕飯抜きの刑に処されたニェポに、罰として危険な遺跡遠征に出かける羽目になったスィンパがホトグミを差し入れに行ったという話は、特に誰にも知られることは無かったとかなんとか。
今日もユタトラは、だいたいいつもの通りなのであった。



行く手を阻む蝶の仮面に勝ったは良いけれど、
やっぱり、魔砲少女は軽やかに障害を越えて行きます。
自分で始めたことに対して、幾ばくかの疑問とやり遂げたい意志の葛藤は巡って、
こんな調子では魔砲少女の助けになれる日は来るのでしょうか。
いぢめる神様と、いぢめられる神様にしか、分からない。




エンディングテーマ 『・・・・・・?』

何か聞き覚えのある音楽が流れかけたところで雑音が混じり、バタバタと激しい音の後、
クラシック音楽と共にボートの流れる映像が映し出された。

字幕:今後エンディングテーマに『スィンパのパラダイス』は意地でも放送いたしません。お騒がせしております。

何処かの馬鹿が放送させようと機械でも弄りに行ったのだろうか。
間もなく復旧して、次回予告が始まった。


【次回予告】
にゃ            字幕:(橙です。)
にゃにゃ、うにゃ、にゃーう 字幕:(魔砲少女の追っかけをしている間、遠征が疎かだったので、リトバさんに叱られ続けていたのですが、)
にゃにゃにゃー       字幕:(ついに、遺跡の遠征に一人で行ってくるよう厳命されてしまったようです。)
にゃふ           字幕:(・・・・・・生きて帰れるでしょうか?)
んにゃ、にゃーにゃう    字幕:(次回、第四話(遺)紳士的に助太刀すれば)
にゃ?うにゃ?にゃん・・・   字幕:(え?助太刀するのかって?私に訊かないで下さいよそんなこと・・・)
にゃふん          字幕:(とても、疲れます。)



--- キ リ ト リ ---



魔砲少女まじかる☆りぷるんの物語を元にして裏で暗躍する、といっても、結局元になるのは、私が読んで自分の中に思い描いた魔砲少女の物語な訳で・・・後で読み返してみると、無意識に思い込んでいる部分が意外とあります。
修行というからにはユタトラ諸島以外の島で、でも危険な場所ではなさそうなのでユタトラから近い小さい島なんだろうと勝手に思っていたものです。
うーん、脳内補完。当作品は普段の42倍の脳内補完能力をフル活用しつつお読みください。

そして遂に、能力不足を補って切磋琢磨するバトル展開が・・・
・・・・・・。
と思ったら、ただのジャガもどきの皮むき競争でした。
モンスターファームを踏襲して「もどき」と付けるなら、カレーもカレーもどきにするところだったろうかとずっと悩んでいた私です。
第三話はこの部分だけは面白く収まったんじゃないかなと書いていた当時は思いましたが、10回ほど読み直したらなんで皮むき競争なんてやってんだろうと頭を抱えました。
20回読んだらいろんなものが足りなさ過ぎて、あヴぁヴぁヴぁヴぁ。
なんでジャガもどきの皮むいてんの?なんで!なんで!?私が聞きたいよウワァァァァ

それにしても皮を剥くの剥かないのってやらし(ムーンサンダー
皮剥きと検索すると、なるほど、普通に野菜の皮剥きが出てきますが、
皮を剥くと検索すると(ムーンエクスプロージョン
日本語の妙を思い知りました。ニュアンスの違いというか、微妙な使い分けというか。

場面を飛ばすのがとても苦手なので、とりあえず全部書いてから必要の無い場面はバッサリ削除するのですが、没になる文章だけでも相当量があって、なんだか堪りませんね。
これでも大分文章を削りましたがそれでも蛇足が多くて展開に差し支えているところが、ところが、これ以上は短くなりませんと開き直ります。ばばーん。

そういえば、シェマさんとこの妖精はアトロポスさんだったよなぁと思いながら、『アトロポス』で画像検索をかけたところ・・・なんでもないです。虫の苦手な方は絶対に真似しないで下さいね。1~2割不穏なものが混ざっていますので。予想外なものが検索結果に引っ掛かるよねというお話でした。15分前の大修正半端ないです。

第三話、半分も来ました、相変わらずの活躍なし!平和!
こんなどうしようもない展開ですが、書いている本人は割と必死です。
それでは、また次回の白紙にて。







ここから先は、破れて読めなくなっている。

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