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白紙五枚目 [白紙]

そこにあったのは、何の変哲もない或るブログの、白紙のページ。
貴方はいままでに読んだ白紙の枚数を覚えていますか?
これは5枚目、残される白紙もなんだか少なくなってきました。
・・・最後の白紙は、未だに本当の白紙ですけれど。
貴方がその白紙に指を走らせると、意図して隠されたと思しき文字が浮かび上がって来ました。

きっと誰も得しないけれど、それ故に書いてみたかった。
誰も得しないなりに、完結を目指して。

気を付けてほしいことには二つ、
魔砲少女まじかる☆りぷるん第四話と深く関連しておりますので、そちらを先にお読みください。
また今回は、魔砲少女まじかる☆りぷるん作者様の意図に反しているであろう解釈をした上で、この第四話は成り立っております。
「こんな描写、原作にはなかったぞ!」という展開になって行きましたら、そこは原作ではSFのターンだったのですと言い張ることにいたします。
誠に勝手ながら、SFのターンの間にも、彼女らの身体は遺跡に在り、現実の時間は進んでいたという解釈で、どうぞよろしくお願いします。
にっ二次創作なんだもの!これくらい良いじゃない!
い、良いじゃな・・・い・・・ゴメンナサイ。

当作品は、MFLの世界を舞台にした、偉大なる先駆者やみなべの著作『魔砲少女まじかる☆りぷるん』の二次創作であり、
MFL、魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の世界観や雰囲気といったものをぶち壊す可能性に満ちております。
特に、ニェポやヒューリなど、NPCとのやりとりが多く、貴方の愛するキャラクターたちのイメージを台無しにすることが予想されます。
この作品を読み進めるにあたり、細かいことは気になさいませんよう心よりお願い申し上げます。

特に今回は、魔砲少女まじかる☆りぷるん第四話の文章を丸ごと写して来たような物となっております。
私は書いていて、とてもラクチンでした。
今は深く反省している。
細かいことは気になさいませんよう、重ね重ねよろしくお願い申し上げます。



--- キ リ ト リ ---



『暴走少女スィンパ』


オープニングテーマ 『光の弾丸は撃ちぬけない』
作詞作曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:スターダストガールズ(ヒューリ・エルナ・ミリーア)




第四話(遺)紳士的に助太刀すれば




魔砲少女を追いかけ始めてから、ちゃんとした遠征に出かけることは少なかったと思う。
理由の大半は、魔砲少女の行く先行く先について行くため。別にストーキングが趣味なワケじゃないのに。いや橙、本当だって。
そういえば昔、近所の子と共謀して村一番の可愛い女の子の後をコッソリつけ回したこともあったっけ。あれは楽しかったなぁ。・・・・・・ん、あれ?
それはいいのだが、ともかくヒロインのお助け役というのはヒロインの後をつけるだけが仕事ではないはずだ。もっとこう、ピンチには颯爽と現れて、スマートかつ大胆にトドメの一発というところまでのお膳立てをするのが・・・
いや、それも言い出すと考古学者だって職業的に間違っている。
神秘的な黄色い砂色。石造りの緩やかな下り坂を歩いて行く。
両サイドは色褪せた石壁、読めない古代文字が続く壁は前方一直線に続き、それ以外の部分は暗闇しか見えない。
そして後ろを振り返る。「たーたらったー♪」などと軽快に冒険家ソングを口ずさんでみても、期待する物は現れなかった。

じゃりじゃりと砂混じりの床を踏み歩く足音の他に、静けさを破る物は無く、
「暇だなー・・・・・・」
ぽつんと言った言葉が壁に反響しながら、溶けて行った。


時間は数時間前に遡る。
「遺跡?」
場所は出航受付場。遠征に出かけようとする人々でごった返すのはいつもの景色だ。
遠征希望を書き出した帳簿には何人かのブリーダーで連れ立って行くものばかりが並んでいるが、その中に一人での遺跡行きの申請を見つけて、ヒューリは疑問の表情を浮かべた。
目の前の人物を見直して、あぁ、と納得する。
「・・・またアンタか、瘴気をまとう孤島を一人で突破するくらいじゃ足りなかったか?」
「うわぁ、そんなこと言う!今回は挑戦のつもりで来たんじゃないや!」
話は長くなりますが、長くなるなら話は聞かないぞ、いやいや聞いてよお姉さん、と一悶着して、遠征をサボり過ぎた罰として行くはめになった由を伝える。
「つまりまぁ遺跡ならどこでも良いんだけれど、お一人様にお勧めな遺跡といえばやっぱり正面になるのかなぁ」
尋ねるスィンパの横で、疲れたように溜息をつく橙を見て、ヒューリはふむと唸った。
「どこでも良いなら、・・・一人でも行けそうな遺跡はあるな」
「詳しく頼むよマスター」
間髪を置かず食いつくスィンパに苦笑して、続きを話す。
「一般に遠征として行く遺跡といえば、正面に、東と西と北。しかしあの辺り・・・大海嘯以前はガランカナンだった海域、そこには他にも小さな遺跡が点在していてな、経験を問わず有志によって探索を進めている小遺跡があるんだ」
「へー、初耳」
「ま、探索に対する報酬も二束三文、普通に遠征に行った方が実入りが良いしな。で、どうする」
「行きます行きます!」
予想通りの返事を受けて、ヒューリは遺跡のある島々の散らばる海域を詳細に示した海図を取り出した。
「よし、なら最近探索が入ったが、何か仕掛けが残っていそうだと報告のある・・・どこだったか、多分、ここだな、頼むぞ」
迷う筆先で、一つの島に印を付けた。
「姉ちゃん、そこってさっき、ライガーのお姉ちゃんにも案内してなかったっけ?」
「それはこっちの・・・ん?ったく、細かすぎるんだよ、この海図は」
細かいことは考えないことにしたらしく、それを隣の弟に突き付ける。
「受付は私がやるから、ほらニェポ、行って来い」
「えぇぇ」
よもや自分が行くことになるとは思わなかったのだろう、ニェポは驚きと抗議の混じった声を漏らした。
「遺跡に詳しい船乗りが出払っているんだ、今日も良い天気だし海も穏やか、平気だろう」
「いや出航禁止だし・・・スィンパだけは乗せるなって、とーちゃん、釘刺してたじゃない」
「な、名指し・・・だと・・・」
聞き捨てならない言葉が聞こえて、スィンパは思わず呻く。
「まぁ、2度も無断で船を出させてちゃ、な」
それについては弁護のしようもない、とヒューリは苦笑交じりに肩をすくめた。
「しかし、こう見えてニェポは十分船を動かせる。アンタも2度の航海で知っているだろうけどな」
「全く慎重な舵取りだよねぇ、これでグジラなりなんなり相棒が居れば鬼に金棒だよほんと」
スィンパの言葉に、グジラ?と首を傾げるが、ヒューリは深くは問い直さなかった。
手元の出航申請の帳簿のページを繰りながらニェポに言う。
「お前が海に出るのに心配なんて要らないんだ。親父が何の心配をしてるんだか知らないが、理不尽な出航禁止を黙って押しつけられてることは無いさ。行くのか行かないのか、早く決めな」
「え、じゃ、じゃあ行く!」
姉のお墨付きを貰って、戸惑いながらも元気に返事すると、ニェポはパタパタと慌ただしく準備を始めたのだった。


・・・・・・、回想終わり。
こうして飛び込んだ現実はあまりに平和なもので、思わずあくびが出た。
遺跡だけに雰囲気は満点であるが、何かこう、無いものか。
落とし穴に始まり、その後の岩ころがし。砂攻め。迫る壁。そして定番釣り天井・・・せめてそのうちの一つくらいは・・・
「『何か仕掛けが残っていそうだ』だってぇ?ヒューリさんの嘘つきぃ!」
「にゃー・・・」
橙の突っ込みを聞き流しながら、危険は少ないと聞いて用意した4本の気力薬を弄ぶ。随分と舐め腐った備えだが、これすら全く無意味だったかもしれない。
ただ歩く以外に暇をつぶす当てもなく、これで何度目になるだろうかと思いながら、ゆったりと遺跡を観察し直すことにした。
外壁は風雨に晒され、その脆く削れた跡の上をツタ状の植物が覆い、実に永い年月を思わせる威厳があったが、一方で内装はしっかりと形の残っている部分が多い。
黄色がかったこの石は何処からか運ばれたものか、それとも粘土などで造られたものか、いずれにしても馴染みのない種類のものだ。
天井には穴があいているが、整えられたその形からして、元より採光を目的にあけられた物なのかも知れない。それを如実に示すかのように、遺跡の中は地下にも関わらず視界に困らない程度の明るさを保っていた。
そして、かつては侵入者を拒んだであろう、壁の動いた跡、落とし穴の跡、跡、跡、
数えきれない罠の発動した痕跡が、およそ20歩に1つはある。
こんなにあって自分が一つも罠に引っ掛からないのがまた、解せないのであるが。
天井から差し込む光にフワフワと、心なしかほこりが立っているように見えて、スィンパは顔をしかめた。
「って、え?・・・ほこり?」
その違和感に、一拍置いてから気付く。
あぁ、ニェポによれば先客がいたんだっけ?
なんだかうやむやなまま出発することになったから失念していた。
こんな何もない遺跡で後発の私に追い付かれるとは、何かあったのだろうか。
・・・遺跡の罠に引っ掛かってた?
まさかね。

気を取り直して、相変わらずあちこちに転がっている罠の跡を眺めつつ進む。
これほどの罠の多さだ、何かを守るために作られたのに違いないだろうが、さて。
古代の偉大なる王の屍か、当時の技術を結集させた美術的作品か、はたまたハイハンドラーの自分には関係ないが、トレジャーハンターの浪漫、宝の山なのか。
そういえばトレジャーハンターFなんて奇抜な作品があったなぁ、なんてことをふと思い出した。
とりあえず、この先に何があるにしても、だ。
歩く道の先から派手な破壊音が聞こえるのは、気のせいであって欲しいと切に願うのだった。

後に知ることとなるが、ヒューリのメモによると、そこには立派な壁画があったらしい。
将来ユタトラに歴史博物館なんてものが出来たりしたら、間違いなく目玉展示物となったであろうほどのものだったと聞く。
しかし、来て見ればそこは

ゴゴゴゴゴォォォ!!

ゴーレムとは似て非なる、巨像の暴れる広間だったのである。
そいつの背にする壁の跡のようなものが何だったのか、あまり考えたくなかった。
「うわ、あいつも遺跡の罠の一つ?遺跡を守るものが遺跡を壊すわけ無いしなぁ・・・ねぇ、もしかしてアレの討伐も仕事に含まれてるの?なんかすっごいよ?」
「にゃにゃー?」
コソコソと言い合いながら、とりあえず自分の手に負えない物を見たときの条件反射で、瓦礫の裏から様子を窺った。
一目見てゴーレムらしくないとは思ったが、クーテンバインやサーテンバインに形が似ているようで、それも違う。
もっと武骨で、まるで洗練されていない。
瓦礫が適当に組み合わさっているようなその外観は、歪の一言に尽きた。
その巨像はただ暴れているだけじゃなく、何かを狙ってそのバカみたいに長い腕を振り降ろしているようだった。
誰かと、闘っている?
あぁ、いや、聞こえた、人の声だ。
ようやく、先客があったことを思い出して飛び出しかけたが、巨像の正面に居る人影と獣の姿が何者であるか把握して固まった。
そこに奮闘する一人と一匹、スィンパが性懲りもなく追い続けている魔砲少女とそのお供なのであった。

そのまま様子を窺えば、彼らの撃ち込む雷も光も通用する様子はなく、どうやらいつも通りの大ピンチ。
これは何度目のピンチなのだろう、今まで横で見ていた回数を頭の中で数える。
また、いつも通りに華麗に倒しちゃうんでしょう?
やっちゃってよ、いつも通りに。
レッドグラスをかけるのも忘れて、否、多分自分の助力なんて要らないでしょうなんて勝手に思いながら、どこか人事のように眺めた。
なぜこんなに頭が冷めているのだろう、遭遇するつもりも無く遭遇してしまったから?
いつもなら、四の五の言わずにとっくに飛び出している頃だというのに。
隙間なく振るわれる巨像の腕、その振動に床は揺れる。
振り降ろされる腕に、魔砲少女は避けきれない。
その前に立って庇ったライガーと一緒に吹っ飛んで、
ガブリ。
「ッ痛ぁ!?」
「フーッ」
何をボーっとしているんだとばかりに、橙はその翠の目に怒りを湛えてスィンパを見た。
魔砲少女であろうとなかろうと、関係あるものか、
かけろレッドグラスを、役に立たなくたって、そこに助けが要るならば。
でも助けって・・・いや、考えよう、何かやれるだろう、何か、一般人のちょっとした悪足掻きか何かが。
ポーチの中、カチャリと4本の気力薬が音を立てた。
押されるようにしてレッドグラスを装備して見れば、力なく横たわるライガーに寄り添う少女の姿があった。
そこに振り降ろさんと腕を持ち上げる巨像の傍で、まるで時が止まったかのように動かない。
その一瞬で腹を決めた。飛び出す。走る。そして叫ぶ。
「お呼びじゃなくても私参上!!」
口を突いて出た、無様な登場台詞に突っ込んでいる時間なんて無かった。
足腰の衰えた橙を抱えて走れば、今しも巨像の腕が振り降ろされようとするのが見える。
こちらなどまるで相手にする気がないのか、動かない少女に勝利を確信した様子で、慎重かつゆっくりな動作。そこに付け入る隙がある。
まだ巨像までは距離があるけれど、きっと並みの技では威力は足りない。
近距離、せめて中距離が届けば。
「橙!ファイトッ!」
「に、にゃ?」
突然の鼓舞する声に不安げに問い直すが、主人は言葉ではなく、行動を以って答える。
一瞬立ち止まって、思い切り巨像に向かって橙を投げた。
「に゛ゃああああっ!!!」
遺跡の空気を引き裂くように、哀れな悲鳴が響き渡る。
しかし何とか中距離の技が届きそうな範囲に、三歩よろけて着地するのを見届けると、走って追いながら声を張り上げる。
「ムーンエクスプロージョン!!」
威力のある技なんて、自爆一択。
若木の木剣をブンまわして叫べば、ハッと思い出したように技を繰り出した橙を中心にして、地から立ち上る光の柱が巨像を射抜く。
有効範囲ギリギリ、効果は薄い。
魔砲少女に向かって振り降ろされかけた巨像の腕を押し返すに留まった。
ガッツ消費の激しい技に、ガクリと力が抜けかけるのを堪えて、次の一歩で強く地面を踏みつける。
まだ行ける?やれる!
むしろここからだ。
よろりと再び走りだしつつ気力薬を3本煽れば、心の奥に闘志が燃え立って、胸を焦がす。
半分むせながらもニヤリとして吠えた。
「も一発ッ!」
我武者羅に、出鱈目に、口の端から気力薬を零して。
そこに華麗さなんて一片も無く、いっそやけっぱちな一般人の悪足掻きに他ならなかった。
自爆ダメージに耐えながら、それでも老いた獣は主の声に応え、続けて放つ光の柱。
その白熱の中で、巨像は一歩だけ退く。
目に見えるダメージはそれだけで、次の攻撃に腕を振り上げる分だけの時間稼ぎにしかなりゃしない。
重力すらも重く感じるほどの疲れに抗って、負けそうな足を叱咤して、最後の気力薬を空けた。
それでもガッツが足りない?そんなことは屁でもない。
必要なのは、魔砲少女が再起するまでの時間を稼ぐこと。
隙あらば腕を振りまわすような奴を相手に、ヒト一人とライガーを担いで逃げる暇など、まして休んでいる暇なんてない。
倒れた後のことは、倒れた後に考えれば、それで良いんだ。
口の端の気力薬を袖で拭って、思う。
まぁ、どうにかなるでしょう。

ライガーと少女の横を通り過ぎて、更に巨像に肉薄する。
通りざまにチラリと見た少女は、まるで夢でも見ているみたいに気持ちよさそうに目を閉じていて、必死に戦っている巨像と自分の方が場違いなのではないかとすら思った。その腕の中のライガーが、口に何かを咥えたままで大きく息をつく。生きている。
「ああああぁぁ!女の子の寝顔って良いなぁぁぁあああ!!!」
変なところでガッツを補充して、巨像の足元で声を揃えた。
「ちぇぇぇぇぇぇぇええん!!こいつを月までぶっ飛ばせ!!!」
「にゃっははははははは!あにゃーっ!!」
カッと、世界が輝きに満ちる。
視界を白く塗りつぶして、炸裂する光の奔流。
地響きさえ起こしそうなほどの勢いで吹き上げて、
火、水、雷、そのどれでもない力が、巨像を貫いた。

三度に渡って繰り出したムーンエクスプロージョン。
その暴力的なまでの眩しさと同時に、度を超えた疲労と脳を掻きまわす頭痛がスィンパを襲う。
頭の中で、何かを守っていた部分が焼き切れるのを感じた。
思い出したくなくて蓋をしたものがゴロリと重く転がり出て来る。
ドッと溢れて、浮かんでは消える記憶は、いつかの夢の続きのようだった。
水の壁、冷たい、紅い目、助けて、無理、無理だって。
あぁいや、そんなものに浸るのは後回しだ。

ガッツブレイクして、崩れざまに橙を抱き込んで衝撃に備えれば、巨像の振るった腕に弾き飛ばされて身体が宙に浮くのが分かった。きっとこの興奮が醒めたら体中が傷むのだろうけれど、感じたのは激しい衝撃だけ。
全然歯が立たないとか、やっぱり倒せなかったかとか、そんなことは割とどうでも良いことだった。
巨像の自分への一撃が、少女への攻撃を腕一振り分だけ先送りさせたことの方に、妙に満足する。
さぁ、あとは、頑張れ。
鈍い音を立てて、上手いこと大きな柱の裏に転がった後、
最後に耳の奥で聞こえた、巨像が腕を振るう音に、あの少女は避けれただろうかと思いながら、
腕の中で相棒がしっかり息をしていることに安心すると、やっと身体の力を抜いた。
橙の他に、腕の中に感じる硬い感触。
それが何かを確かめることもなく、そのまま意識を手放した。


オレンジ色の光の中、ゆらゆら揺られて、心地が良い。
・・・いや、その心地良さに沈み込もうと意識してみたら、一気に違う感覚が襲って来た。
床が堅くて寝心地は悪いし、第一、酷く打った跡がズキズキと傷む。
「ハッ」
「おはよう、なんか大変な遺跡だったみたいだね、大丈夫?」
船尾で舵を取りながら、ニェポが声をかけて来る。
気付けばそこは船の上、のんびりとユタトラ方面に向けて戻っているところらしかった。
腹の上で橙が、ぐたりと伸びるようにして寝ている。
自爆ダメージのある技を三度も繰り出しては、負担も大きかったのだろう。
「無茶させてごめんよ、お疲れ様」
撫でれば、うー、と小さく唸って返すのが分かった。
遺跡、遺跡で、そう、夢の続きが、じゃなくて、
巨像に三連ムーンエクスプロージョンをお見舞いして、どうなったんだっけ。
「凄いよ、ライフセイバーズに運ばれて出て来たんだ、おいら初めて見た!」
「な、何がなんだって?」
「知らないの?遠征先で倒れたブリーダーを回収する3人組のことだよ」
「あー、ライフセイバーズなんて呼ばれてるんだ、運ばれた記憶はないけど」
「すごいなー、運ばれてるって気付かせない程の運び方なんだ、プロだなぁ」
妙に感心しているニェポだが、そんなことは置いといて気になることがあった。
「ニェポ、遺跡から私とその運び屋以外に、誰か出て来るところ見た?」
「え、どうかなぁ・・・近くに他の船があったから誰か居たのかもしれないけど、とっくにユタトラに帰っちゃったよ」
「そっか、とりあえず無事だったのかな」
「?」

何の話をしているのか分からない様子でニェポは首を傾げてから、あ、と何か思いだしたように声を上げた。
「これ、スィンパが橙と一緒に抱えてたらしいけど」
渡されたのは一枚の、丸くて少々厚みのある板状の石。
トカゲのような模様の刻まれたそれはまさしく、円盤石だが・・・
「これまた凄い有様だね」
擦り傷だらけの表面に、薄くヒビが入ったりもしている。
「身に覚えは無いの?」
「いやぁ、多分たまたま倒れた先に落ちてたのを橙と一緒に抱えてたんだと思うんだけど」
これじゃあ他のブリーダーには渡せないかなぁ、と漏らすのを聞き咎めて、ニェポが顔を上げた。
「スィンパが育てれば良いじゃない」
「橙が居るから、まだいいよ」
「それってさ、新しいモンスターを育てないのは、橙が居るからなの?」
珍しくニェポから一歩踏み込んできて、スィンパは面食らう。
「それは、どういう」
「おいら思ったんだけどね」
間違ってても怒らないでよ?と前置きをして、言った。
「もしかしてスィンパ、モンスターと意思疎通が出来ないんじゃないかと思って。それだったら新しくモンスターを育てようとしたって難しいもんね」
一拍。動きを止めてから、スィンパは笑う。
「またまた御冗談を、そりゃ、普段から橙と噛み合ってない自信があるけどさ」
「そこはまぁ、そういうコンビなんだと思ってるよ。でも、技の指示をするときの指示具の振りが複雑だよね?大海獣に会いに行ったとき、技の指示をするのを船から見てたけれど、なんであんな変な振り方するんだろうと思ったんだ。技ごとに振り方を変えて橙に伝えてるんじゃないかと思ってさ」
言いながら、少しの手がかりも逃さぬようにスィンパの顔色を窺う。一方何でも無いような素振りで彼女は肩をすくめた。
「お前は細かいとこ、よく見てるのな・・・指示具の振りが変ってまぁ、そうだけどさ。私が人と違うことを好むのは、今に始まったことじゃないよ」
「あれ、意味無いの?」
「石が路傍に転がっていたとして、そこに意味があると思うかね」
ハハと笑って、続ける。
「こんな指示の仕方始めたのもブリーダー始めてからだし、そんなんじゃブリーダーの認定試験なんて通らないよ?」
その言葉で、この話題は決着するとスィンパは思ったが、しかしそれはニェポに反論の材料を与えてしまう。
妙なところで鋭いその少年は確信を以って、首を横に振った。
「おいら知ってるよ、意思疎通の試験はニャー人形を倒す実技なんでしょ?そんなの、ブリーダーがモンスターの言葉を知らなくたって、出来るじゃない」
「そ、そんなこと出来っこ」
「出来るよ。だって、・・・ねえ橙」
「にゃー・・・」
疲れたような声で返事して、ニェポを見上げる橙。
「お願い、あの枝に『ムーンサンダー』当ててみてよ」
ニェポの指差したのは波間に揺れる一本の枝。
唐突な依頼に首をかしげたが、応じるだけの余力はあったのだろう。
橙は「にゃっ」と一発の電撃の塊を打ち出した。
バチンと派手な音をさせて、枝は木端微塵になり、海の藻屑となる。
試してみるまでは上手くいくか自信が無かったのだろう、それを見てニェポはほぅとため息をついた。
「やっぱりそうだったんだ。橙は年寄りだもんね、細かい言葉は分からなくたって、攻撃の命令くらいは分かるんだよ」
「だからって、私が意思疎通出来ないことにはならないだろう・・・」
「なら当ててみて、橙はなんて言っているでしょう?」
橙を抱き上げてニェポが問い、橙は一声漏らした。
「にゃーうー」
「ね・・・」
寝させて下さい、だってよ。と言いかけて、スィンパは黙る。
橙はもう眠そうな様子ではなく、ニェポに抱きあげられているのを嫌がる様子もない。
ただ、ピタリとスィンパの目を見ていたのだった。
どう控え目に見ても、寝させて下さいという顔ではない。
「にゃーうー」
そして先ほどと同じ言葉を繰り返す。
スィンパに伝えようとして、繰り返す。
その目は『本当に何も伝わっていないの?』と、言いたげに、心底から伝えたいのであろうその言葉を口にした。
分かりそうで分からない、見えそうで見えてこない。
違う、橙も言いたくなくて、私も聞きたくないものなのだと思い当たる。
感覚として入ってくる情報を、しかし正しく処理できない。
変なところで気持ちが一致しているから、余計に何も分からない。
「・・・・・・5、4、3」
「おまちょっカウントダウンすんなって」
「いやぁ、だってこのまま何も言わないんじゃないかと思ったんだもん、2」
「カウントダウンされて制限時間内に答えられた試しは無いんだよ!」
「知らないなぁ、頑張ってよ、1」
「うわぁぁぁ、大体、ニェポさん答え分かるの?」
「知らないよ、橙が言いたいことを言ってるんだもん、はい時間切れ」
答えは?と問われて、「こ、今晩のオカズを訊かれたよ」と返す。
・・・今、なんて言った?
混乱するまま適当に口走った言葉で、橙の言葉を踏みにじったのが自分で分かる。
ホントかなぁ・・・と納得いかない様子のニェポの横、橙はもう何も聞きたくないといった様子で丸くなるのだった。
「橙?」
「・・・・・・」
呼びかける声に、返事は、無い。
この状況で、まぁ、どうにかなるでしょうとは、今のスィンパには思えなかった。

静かにユタトラへ向けて帰る船。
その日はニェポとスィンパで出航して以来初めて、お咎め無しに終えることが出来たのだった。



言葉が通じないのは人と獣の定め、
しかし、同じ言葉を持たない者同士を繋ぐのは、通じ合う言葉だけなのでしょうか。
一人と一匹の間に出来た亀裂はここから、大きくなるのか、小さくなるのか、
いぢめる神様と、いぢめられる神様にしか、分からない。



エンディングテーマ 『子守唄』(ヴァシアタ民謡)
編曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:ウル

【次回予告】
にゃ         字幕:(橙です。)
にゃーにゃにゃ    字幕:(遺跡で拾った円盤石の中には何が眠っているのでしょうか。)
うにゃ、にゃふん   字幕:(何にしろ、私の後を任せるのは、なんだか可哀想です。)
にゃーあにゃー    字幕:(もっとも、あの莫迦に育てる気は無さそうですけれども・・・)
にゃっふ       字幕:(知りませんよ、あんな娘。)
んにゃ、にゃーにゃう 字幕:(次回、第五話(仲)紳士的にやり直せば)
にゃふん・・・      字幕:(ホント、とっても、疲れます。)



--- キ リ ト リ ---



オープニングテーマのタイトルは、某ライトノベルのタイトルを参考に・・・した振りをして、とてもよく似たタイトルの某マリアリ短編小説を参考にしました。あいや、結局どっちも参考にさせて頂いたかもしれない。
この手の届かなさがなんとも。
思いだしたついでにマリアリ短編小説の方を読み直してみましたら、小説の終わりに『魔砲』というキーワードが入っていて、思わず熱くなりました。
歌を担当するスターダストガールズは、ほら、幼き日に見た宇宙船サジタリウスの・・・ってどんな話だったかも覚えちゃいませんけれど。OP・EDだけは覚えている物が多くて、やー、はー。
蓋を開けてみると、あちこちのネタの掻き合わせでしたスペシャル的な何かという話。

さて、物語全体の骨組をここにきてようやく考えたので、
ここまでで書いていた前話を書き直したりと大工事の大変な回でした。
元の案では、シュマさんは協力的立場だったらしいですよ?敵対勢力って必要なものですね!
この辺から書くのに時間がかかってきているので、文章の書き口が変わったりしてるんじゃないかなぁ、そうでもないかなぁ。

今回は、勝利のために必死で泥臭く無様に頑張って、やっと時間稼ぎ程度には役に立つというのが書きたかったので、その辺ばかりこってり書いておりました。
無茶のしどころでは、キャラクターが勝手に動いて話を作って行こうとするのがよく分かりますね。
この回の、巨像との立ち回りだけは、修正のために何度読み返しても苦にならなかった気がします。
気が・・・します・・・

ムーンエクスプロージョン三発入れてビクともしない巨像が強すぎないかと申される方がいらっしゃるかも知れませんが、冷静に考えればクーテンバインもサーテンバインも、ムーンエクスプロージョン三発くらいじゃまず倒せないでしょう。
あの巨像は、魔砲少女だから倒せるものなのです。
いろいろと原作者様の意図に背いた解釈も含めて二次創作ということで一つ多めに見ていただきたく存じます。

さて、第零話公開時点で第四話が制作中でありましたが、ついにストックが尽きました。
第五話と第六話の制作が難航しており、だいぶ長い休載期間を挟みそうな予感がいたします。
こと第五話のぐだぐだ感がとても読者にも辛い何かになりつつあり・・・ぬわーっ
鋭意執筆中、無事に完結するのかどうかは、いぢめる神様といぢめられる神様にしか分からない。
って、あ、あー、大海獣は北に生息していると記述していましたが、どう考えても南の間違いです。
アイテムの説明文はちゃんと読みましょう。書き直します。
こんな具合にあとからボロが出てくる有様ですが、完成させてやりたいものです。
それでは次の白紙の作業へ。













ここから先は、眠りながら書いたかのような奇妙な文字が続き、読めなくなっている。

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