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白紙六枚目上半分 [白紙]

そこにあったのは、何の変哲もない或るブログの、白紙のページ。
これは半分にされた白紙の上半分のようだ。
6枚目の妙な長ったらしさは、物語の終わりに向けて書きたいことを詰め込んだ結果でしょうか。
あなたがその白紙に指を走らせると、意図して隠されたと思しき文字が浮かび上がってきました。


きっと誰も得しないけれど、それ故に書いてみたかった。
ていうか、なんかこれシリアスすぎな・・・あれー、おかしいなぁ。

気を付けてほしいことには三つ、
この物語には津波を含む表現があります。
MFLには無かった設定の捏造が多々見られますが、これは勝手に私が考えたものです、押し付けで申し訳ない。
また、或るプレイヤーキャラクターの方々によく似た人物が登場しております、苦情は受け付けますが話を変えろといわれると困ります。てへぺろっ
当作品は、オリジナルを尊重し、そこにさらにオリジナリティを付加して残すような創作に憧れながら暴走しております。

当作品は、MFLの世界を舞台にした、偉大なる先駆者やみなべの著作『魔砲少女まじかる☆りぷるん』の二次創作であり、
MFL、魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の世界観や雰囲気といったものをぶち壊す可能性に満ちております。
この作品を読み進めるにあたり、細かいことは気になさいませんよう心よりお願い申し上げます。



--- キ リ ト リ ---



『暴走少女スィンパ』


オープニングテーマ『光の弾丸は撃ち抜けない』
作詞作曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:スターダストガールズ(ヒューリ・エルナ・ミリーア)




第五話(仲)紳士的にやり直せば




故郷の平原を呑み込み、なお押し寄せてくる水の壁に巻き込まれて、
冷たさと水圧、激しく渦巻く流れに翻弄される中、
私の傍にいた小さなアルネロの紅い目が、こちらを見ている。
その目が『助けて』といっているように見えた。
私は自分をどうにかすることに必死で、辛うじて、体の小さな橙を離さないよう抱え込む。
水が重くて、肺も潰れてしまいそう。
・・・・・・これは、夢だ。
津波に呑まれたというのに、アルネロの目を見ている余裕などあるはずがない。
それでも意思に反して、身体が動いた。
無理に手を伸ばして、水の流れに抗いながらアルネロの前脚を捕まえる。
それが出来ただけでも奇跡的で、ここからアルネロを抱えて水面を目指すことなんて、出来そうになかった。
紅い目がいう。『助けて』と訴える。
無理、無理だって、そんなの私も死んでしまう。
寒さと疲労と酸素不足、自分以外のものを助ける余裕は、どこをどうしたって無い。
『助けて』
ごめん、ごめんって。
目を背けても、それは頭の中にガンガン響く。
助けられない。私には何も出来ないんだ。
それが分かっていても、縋ってくるその声のために、アルネロを捕まえている手を離せなくて、余計に体力を消耗する。
紅い目が、最後に何か伝える。
『・・・・・・、――――――』
何かが塞がったようになって、もうその目から意思を読みとれなくなった。
紅い目はそこにあるだけで、もう何も訴えてこない。
気が、緩んだのだろうか。手から力が抜ければ、水流が軽々とアルネロを奪って、引き離す。
ああ、まだこれから、素敵なことが沢山あるはずだったのに、
つぶらな紅い目が、消えていく、
私の与えた名に反して、暗く冷たい水底に、消えていく。


「おい、大丈夫か、おい」
「・・・・・・ッ」
聞きなれない声が、スィンパの意識を夢の中から引きずり出す。
目を開けた途端そこが見知らぬ部屋であることに気付いて飛び起きようとしたが、背中の鈍い痛みにそれは叶わなかった。
また夢、あのアルネロは一体なんだったのだろう。
今度はゆっくり身体を起こしながら、見回す。
寝台が四つ並べられた簡素な部屋で、そのうち出入り口側の二つに人の気配は無い。
窓側の一つには自分が寝かされていて、もう一つはカーテンで締め切られている。
その、スィンパから見て向かいの寝台から、カーテン越しに声をかけるものがあった。
「起きた?・・・よかった、向かいに来て早々、変な発作でも起こして死なれちゃ目覚めが悪すぎる」
「ここ・・・病院?いつの間に来たんだっけ」
「昨日、日が沈んだ後に運ばれてきたな。多分、あんたは眠ってた」
「そっか、帰りの船は静かだったもんなぁ」
疲れも手伝って眠ってしまったというわけだ。そのまま病院送りになるとは思いもしなかったが。
酷く疼くのは右半身と、左肩。巨像の腕にぶちかまされて、床に叩き付けられ・・・と、少しずつ思い出してきた。
目で見て確認すると余計に痛みが増すような気がして、打った痕は見ないまま寝台の横に置かれた鎮痛剤と思しき粉を一息に飲む。
口の中に苦味を噛み締めながら、スィンパは自分の持ち物一式が水差しの傍に置かれているのを確認した。
すぐに足りないものに気付いて、ハッと顔を上げる。
「橙、どこ?」
呼びかける自分の声が妙に頼りない。一拍おいてから、橙の代わりにお向かいさんが返事をした。
「あんたのモンスターなら、窓の前の腰かけじゃない?」
「腰かけ?」
窓の方へ身体をずらしてみれば、窓際に置かれた低い木の椅子の上、日向で暖かくなったその場所に丸くなっている背中が見える。
「晴れてると丁度良い具合に日が当たってね。うちのぱすた粉のお気に入りの場所なんだけど、そこが取られたらしくてご機嫌ななm いてて、やめろぱすた粉、ぱすた粉さん」
向かいの方で何かえぐるような、折るような、弾けるような。なんとも形容し難い異音が聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。
こちらを向かないままの橙の背中に、声をかけてみる。
「身体は、なんともない?」
その問いにも返事はなく、ただ耳をぴくりと動かすだけ。
聞いてますよ、ちゃんと。それは主従の間では何度も交わされた意思表示だが、それ以上の返事をする気がないという意味でもあった。
「アンタが寝ながらうなされてたのは、気にしてたみたいよ」
「・・・そっか」
一応、心配はしてくれたのかと、少し安心する。
「それは何、あんたたち喧嘩中なのか」
こちらの挙動から何か感じた様子で、カーテンの向こう側からおかしそうに笑う声がした。
その人がどんな人物であるか、カーテンでその姿が見えないだけに判断材料は少ない。
声は高めで幼さを感じるが、どこか擦れた感じもする。
女性らしい一方で、その口調は粗野だ。
割と最近、どこかでこんな声を聞いた気がして考え込んでみるが、どうにも思い出せない。
しばらく思考にした末にようやく諦めると、カーテンで仕切られた向かいの寝台の横、萎れた淡いピンクの花が目に付いた。
気付いてみれば色彩の乏しい部屋だ。彩りと呼べそうなのはライムグリーンのカーテンと、その花一輪こっきり。
会話が無ければお向かいさんは静かで、今、部屋には静寂が満ちている。
・・・そのまま数分としないうちに何か落ち着かない気持ちになってきて、その原因にすぐに思い当たった。
「じっとしてるの飽きちゃった」
「怪我人は黙って寝てな」
「ダメダメ、もう目が冴えちゃってね」
あ、あ、飽ーきたー、と節を付けて歌えば、「うるさい馬鹿」と面倒くさそうな一言が投げられる。
「話し相手くらいしてやるから」と続くあたり、彼女の優しさが窺えた。
それでも何か、どこかにおとなしくしないための口実を探せば、荷物の中に円盤石が混じっているのが目に入る。
ひどく傷だらけのそれを手にとって見ると、再生されるモンスターを示す文様が擦り切れていて確認できないことに気付いた。
「これ・・・再生してみなきゃ分からないな・・・」
「円盤石の話?パートナーとの喧嘩中にそいつは勧められないな」
「何の円盤石か分からなくってね、なに、またすぐ封印してもらうよ」
「今は神殿で再生受け付けてる時間じゃないだろ」
「その辺の無理を通すのは得意なんだ」
早速出かける準備をしようと、床に足を付けて立つ。打撲箇所は触れなければ痛まないらしく、二度三度と足踏みして、行けそうだと判断した。
そのうち薬も効いてくるだろう。
「やることも見つかったし、行ってきます。後はよろしくね」
「やれやれだ、アンタみたいなのは止めても無駄だろうな、ま、気をつけて」
送り出す挨拶だけくれるあたり、馬鹿の扱いをよく分かっているお向かいさんだった。
「ではね!えーと、お大事に?」
「お互いにな」
名前を聞き損ねていたことに気付いたが、いまさら訊くのもおかしい気がして止める。
腰のベルトにオレンジポーチを留めて、締める。そしていつもの調子で、丸まった背中に声をかけた。
「橙、行くよ」
返事もせずに更に身体を丸める姿が、なんだかへそを曲げた子供のようだ。
無理やり連れて行く気にはなれなくて、一言だけ言い残す。
「神殿に行ってるから、・・・気が向いたら来てよね」
病院の人に発見されないよう窓から出て降り立てば、砂利混じりの荒い土が素足を刺した。
「・・・ごめんね」
振り向きもせずに、微かに耳に届くほどの小さな声でしか謝れない自分もまた、どうしようもなく子供のようだった。

窓の外でガサリと草を蹴飛ばして、走りかける足音が一歩分。
後はぎこちない足取りで歩き去ってゆくのが聞こえる。
そりゃ、走れば怪我に響くだろうとこむぎは苦笑して、後姿くらい見送ってやろうと、寝台のカーテンを開けるようぱすた粉に頼んだ。
腰掛の上に一匹残っていたのは、年老いて白い毛の目立つアニャムー。
先ほどの『馬鹿』に対してつれない態度を通していたが、今は窓の外に遠のく背中を見送っている。
喧嘩しているのかという問いに答えは無かったが、多分そうなのだろう。
言いたい事を言い合って、気の済むまでぶつかったら、すっきり終わらせる。それが出来たら一番だろうけれど、感情はそんなに上手く切り替えられないことをこむぎは知っていた。
本当に怒るのはほんの一時だが、後になって相手を許したら怒っていたときの気持ちが嘘だったような気がしてしまって、謝れなくなる。
このモンスターも、そんな気持ちでいるのかもしれない。
「アンタ知ってる?本気で喧嘩しなきゃ、友達じゃないんだって」
こむぎに声をかけられたアニャムーが不思議そうにこちらを向く。
その表情からこちらの意思が伝わっていることを確認すると、こむぎは訊いた。
「どう?本気で喧嘩してる?」
アニャムーが返事をするようににゃあと鳴いて、また窓の外を見る。
それを聞いてまた笑うと、病院を脱走していく馬鹿の背中を見送って、
彼女は一番身近な馬鹿を想った。


一人の神官が、円盤石の再生に使われる祭壇の前で、一枚の円盤石を観察している。
手にした円盤石を正面から見据え、表面を撫で、耳を当てて揺すり、コツコツ叩き、
「それで何のモンスターが再生されるか分かるの?」
「いくら神官でもそれは無理だ」
目下鑑定中の傷だらけの円盤石を持ってきたスィンパに即答して、フラセールは観察を続けた。
街の外れの海の近く、神殿として構えられた建物から少し離れたあたりに、その祭壇はある。
そこは円盤石に封じられた生命を再生し、誕生させる場所。
海に臨む地に森を切り拓いて、広い円形の白石が祭壇として埋められ、その表面には中心から波紋のように二重三重の円の文様が掘り込まれている。
それをぐるりと囲むように支柱が立っているが、何しろ屋根が無いので、偶にユタトラを襲う嵐や暴風などで荒れたままになっていた。
その祭壇を前に、両手を一杯に開いたほどの大きさのスイッチを備えた台が設置されている。
橙の他にモンスターを従える自信が無かったこともあり、滅多に立ち寄らないその場所を珍しそうに眺めるスィンパの前で、フラセールはようやく円盤石の観察を終えた。
「ギリギリ、再生は出来そうだな」
「ほう、一つ頼むよフラ氏」
「いやその呼び方はおかしいだろう」
納得しかねる様子で顔をしかめてから、真面目な表情で説明を加える。
「これだけ損傷が酷いと、どこか欠陥のあるモンスターが誕生するかも知れない。前例のあるものでは、・・・ブリーダーとの間に、生まれながらにあるはずの絆が生じないってのが、一番多いな」
「つまりどういうこと?」
「育成が、『主人と認められること』から始まる。技を指示することは愚か、おとなしく後を付いてくるかも分からないし、懐く保障すら無い」
主人として認められること?
いまさら突きつけられたその言葉は、少々現実離れして感じられた。
橙の正当な主人は母で、私は橙を借りっぱなしにしているだけだ。
それは橙からしてみれば、私が主人の娘だから従っていただけなのだろうか。
呼べば応えた。技を指示すればそれに従ったし、走れば後を付いてきた。
果たして、そこに絆はあったろうか。
主人の娘への義理立てではなくて?
幼い頃から傍にいた橙との絆を初めて疑う。
疑ったという事実が、心の中に冷たく沈んだ。
思わず触れた肩の上に当然橙は居なくて、打撲の跡がじわりと痛むだけだ。
「さ、サービス営業はここまでだ。ここの営業時間は日没以降だからな」
「そうはイカの金玉よ、最初の約束では円盤石の中のモンスターが何か分かるところまでって話だったじゃん」
「なんだ、深刻そうな顔したくせに冷静じゃないか」
「自分に都合の良いことと、エルナさんに関することにかけては貪欲ですから」
こちらの都合など聞き入れそうにないスィンパにやれやれと肩をすくめて、フラセールは再生の準備を始めるのだった。

広い円形の祭壇の中心に、光が灯る。
フラセールがその光の中に円盤石を浮かべてスッと水平に回せば、そのままの速さで円盤石が回転し、やがてゆっくりと加速を始める。
ここ、ユタトラの神殿では、再生の祭壇の機構を作るために必要な特殊な鉱石の不足に加え、急ごしらえで作りが甘いため、回転の初動は手作業で行うのが通例だ。他にもいろいろ手動でこなさなければならない部分があるが、神官フラセールの手付きも慣れたものである。
その回転速度が十分な速さに達したと判断すると、フラセールはスィンパを祭壇の正面に位置する台の前に立たせた。
「あとはそのボタンを押せば、円盤石からモンスターが生み出される」
「再生しても、また円盤石に戻せるんだよね?」
「ああ、名前を付けないうちはな」
あまりの仰々しさに念を押すが、返ってきたのはそれだけだった。
仕方なく、促されるままに両手をボタンに当てて、ガコンと押し込む。
その手応えと、明確な形の無い不思議な期待感。
以前どこかで似たような経験をしたような感覚に捉われたが、祭壇の上の変化に気付けばそちらに目が奪われる。
広い台座の八方に、円盤石から生まれた光がうずくまる。
そのどこか頼りない煌きの一つずつが、これから生まれてくるモンスターの心と身体の一部だった。
円盤石から解放されたことに気付いたのだろうか?
生まれたての眩しさを放って光が動き出す。
一つは舞い上がり、一つは跳ね、一つは台座の上を所狭しと駆け巡る。
それはそれは、綺麗な光景だった。
神殿の営業が夜に限るというのがこの為だとすると、納得できる話だ。
八つの光が一つまた一つと、自らを封じていた円盤石の元へ収束し、その形を作っていく。
全ての光が一つにまとまると、あまりの眩しさに祭壇を直視できなくなった。
その光の中で、カパと台座を叩く硬い音がする。
脳裏によぎるのは、ヴァシアタの寒い神殿で再生された一頭のアルネロ。
一瞬、全てを思い出せた気がして思わず「ひなた」と光に向かって呼びかける。
ぶるる、と応える声は、幻聴ではなく確かに目の前の祭壇から聞こえた。
軽やかな風が吹く。
それがユタトラの潮風なのか、ヴァシアタの寒風なのか、区別もつかないほどに頭の中は一杯で、
そこに居たの、やっと会えた、やっと、この腕で
「お前にその気が無くても、いま名前付けたことになったからな?」
「へ!?」
思いがけない言葉に我に返れば、そこは相変わらずユタトラの神殿だった。
果たしてさっきのは何だったのか、思い出そうとした途端にその記憶は逃げていく。
いや、今この神官は何と言ったのか。
「名前を付けた?私が?」
「ひなた、だろ。こいつもちゃんと返事したからな」
そう言ってフラセールが示した祭壇の上には、一頭の小さなモモテロがいた。
「そ・・・・・・」
そんな、と言いかけたまま息が詰まって声が出ない。
モモテロがこちらを見ている。
脈打つ胸を押さえて、その胸元を押さえる手には、汗。
思わず一歩、歩み寄って、気付いて二歩、後ずさった。
何の弾みか、モモテロがスィンパの方へ一歩近付き、スィンパは押されるようにまた一歩退く。
アンテロ種は駄目だ。
助けられなかった。私には何も出来なかったんだ。
そのスィンパの反応を見て、フラセールは静かに眼鏡の位置を直す。
「名付けてしまった後のモンスターをどうするか、選択肢は二つある。育てるんでなければ、・・・・・・」
「野に、放つの?」
それが具体的にどういうことを意味するのか、スィンパにはよく分からない。どこの野に放たれるというのか。野に放たれたモンスターは、その後どのようにして生きていくのか。生きて、いけるのか。
「それを決めるのはブリーダーだな」
しばらくそのままで時間が経過する。
ピクリとも動かないスィンパの様子を見て、フラセールが痺れを切らしたように台座へ向かう。眼鏡が白く光って、その表情は、読み取れない。
モモテロの背に手を置くと、声をかけた。
「行くか、モモテロ。こっちの都合で振り回して悪いが・・・」
連れて行かれてしまうのは嫌だ、けれど、じゃあどうすれば良い?
動けずにいるスィンパを置いて、フラセールがモモテロを誘導するように引っ張ると、それに反してモモテロは思い切り踏ん張った。
大人しくついてくるだろうと考えていたフラセールの手を易々と振り払って、向きを変える。
パカンと軽快に祭壇を蹴る音が響いたかと思えば、花の香だけを残して、モモテロは真っ直ぐにユタトラの街へと続く小道を駆け出した。
意表を突かれるあまり、二人揃って黙ってその後姿を見送るところだったが、生まれたばかりで足元がおぼつかなかったのだろうか、遠くでずだんとすっ転ぶ音でスィンパは我に返った。
「い、行ってくる!」
気を取り直したように再び駆け出す蹄の音。スィンパはそれを追って走り出す。
「おい!お前いつものアニャムーはどこに」
人の話も聞かないで振り返りもせずに走り去るのは、あのブリーダーの常。
「神殿の外に連れ出せるモンスターは・・・一匹だけなんだぞぉ・・・」
担当神官によるゆるーい運営の結果、それは半分あって無いような規則となりつつあるが。
スィンパを引きとめようと差し伸べた手は何も掴めないままに下ろしながら、また規則に煩いシェマあたりから苦情が来るなと独りごちた。
そうして静かになったところに、今度は後ろから呼びかける声。気付いて振り向けば、訪問者が用事ありげにこちらを見ている。
「どいつもこいつも神殿の営業時間を気にしないときた。・・・なんだ、人捜しか、あいつなら街の方に・・・そうだな、花の匂いを辿るといい」
それを聞けば、礼もそこそこに、その訪問者は小道をトコトコ進んでいく。
引き止めるべきかもしれないと思いかけたが、ひょいと肩をすくめた。
「まぁ俺の仕事は日没以降だしな・・・っと」
今度こそ一人取り残されて、ようやく神殿にいつもの平和が戻る。
フラセールは祭壇から眼下に広がる海を眺めて、これからどうなるかも分からない生まれたばかりの一頭のモモテロの幸せを祈った。


「ハリウッドダアアァァァァイブッ!!」
気合の声と共に、街の入り口のアーチに砂煙を巻き上げて突っ込む二つの影がある。
それがドスンバタンとまとめて倒れこんで、街の入り口の近くに居た誰かの足元で仰向けになった。
派手なピンクのモモゾーポーチと透き通らんばかりの白い足が、仰向けのスィンパの目に入る。
「おや・・・この柔らかそうなふくらはぎは、もも氏ジャマイカ」
「相変わらずデスね、紳士・・・」
咄嗟にスカートを抑えたそのふくらはぎの持ち主の声が降ってきた。
スィンパをその名で呼ぶ人は少なくない。ひとえに、日頃の行いのなせる業とでも言おうか。
スィンパが服をはたいて立ち上がると、ようやくももの隣に誰かいるのに気が付いた。
アンテロをお供に連れた、ドラグヘルムの青年。
・・・その組み合わせに思い当たるものがあった。
「あれ、新人ブリーダーの勉強会に居た人じゃなかったっけ」
「勉強会?・・・ああいや、あれは小さいモンスターばっかり集まってるからてっきり、再生したばっかのモンスターの交流会かと思ってなー、別に可愛い女の子が居ないか期待したわけじゃないぜ?」
「ダーリィィィィン?」
うっかりさん、かつ、余計な一言で自分の首を絞めるあたりM気質なんだろうか。
どんな人物なのかが一発で分かった気がした。
しげしげと噂のダーリンさんを眺めていると、ももが興味ありげにモモテロとスィンパを見比べ、声を上げた。
「その子はもしかして?」
モモテロを育てるのか、と問いたいらしいのを理解して、首を振る。
「手違いで再生しちゃって、・・・どうしようかなってところだよ」
「あう、アンテロ種は絶対に育てないっていってましたもんね・・・」
育てちゃえば良いのに、と口の中でもごもご言いながら、ももはスィンパの横の小さなモモテロの頭を撫でた。
初めて人に撫でてもらってキョトンとしているモモテロを、スィンパはもやもやした気持ちのままで見下ろす。
何か察するものがあったのか、モモテロに触れる手はそのままに、ももが口を開いた。
「ね、紳士。ブリーダーがモンスターを育てるのに必要なものって何か分かります?」
「お金ッ!」
切実な回答に軽くこめかみを押さえて、ももは補足する。
「それはそうなんデスけど、私の聞きたいのとはちょっと違います・・・お金があっても、力があっても、それが無ければ本当に大切なものは育たなくて・・・・・・紳士が困っているのはそこだと思います。けれど紳士が考えているよりもずっと簡単で、本当は誰にでも出来ることなのデス」
「誰にでもって・・・例えば、意思疎通の能力がなくても?」
「デスデス」
考え込むスィンパを見つめてなかなか答えに辿りつかないことを理解すると、ももはモモテロのたてがみをポンポンと叩いて微笑んだ。
「それが何なのか、この子と一緒に見つけてみても良いと思います」
「・・・それって、私にモモテロを育てさせたいだけじゃ?」
「バレました?」
ももは悪びれた様子も無く、てへっと笑った。
そのまま静止して真顔になり、急にハッとした様子で手を打つ。
「・・・ああーっ、そう、そうデス!忘れてました!」
あたふたした様子でモモゾーポーチからなにやら厳重に布で包まれた物を取り出すと、布はそのままにスィンパに渡す。
「モモゾーポーチが完成して、余った分があったから、ハイ。協力ありがとでした!」
「って、え?なんだっけこれ」
思わず受け取ったそれを布越しに触ってみて、なにやら硬く細長いものとだけは分かる。
別に下ネタで言っているわけではない。
モモゾーポーチのためにいくつか素材を提供し、余ったら返して欲しいとお願いした覚えはあったが、その細長い形状に覚えがなくて尋ねれば、ももは困ったように弁解した。
「紳士から貰った分も結晶にしちゃいました・・・で、そのう」
素材の代わりに結晶を、というわけだ。スィンパが渡した素材から作られる結晶は、モモゾーポーチの材料の片割れ。しかしそれは少々厄介な性質を持つアイテムで、布を巻いて保管されることが多かった。
なるほどと納得する。
「いやむしろ助かった、私からティッキに頼むと何故か素材の半分を駄目にしてくれるんでね。こないだもせっかく集めた森水をあいつは・・・いや、ありがとうありがとう」
受け取った布の塊を、オレンジポーチにしまい込む。
やり取りが一段落すれば いつもなら一緒にどこかの遠征地に繰り出すところなのだが、二人の邪魔をしては悪い。
さてどこへ行こうか、とモモテロを見やった。
「モンスターを育てるのに必要なものを一緒に見つけるってか、何か見つかると思う?」
モモテロに問えば、困惑した様子でこちらを見上げた。
もしも本当に、意思疎通の能力抜きでモンスターを育てることに必要なものがあるとすれば、探す価値がある。
スィンパは逡巡してから、船着場へと足を向けた。
「紳士、がんばってね!」
声援には後ろ手に手を振って応え、
それを見送りながら、ドラグヘルムの青年が口を開いた。
「なぁ、モンスターを育てるのに必要で、それが無ければ本当に大切なものは育たない・・・その答え、私にも分からないんだが」
「そんなことないデスよ?」
「ヴェ?」
ももは首を傾げる彼に意味ありげに微笑むと、そのまま往来の真ん中でぎゅうっと抱きつく。
少し大胆すぎたかなと思いながら、けれどこれが答えなんだものと心の中で言い訳した。
「私たちは、もう知ってるから良いの」
照れか気兼ねか、決して抱きしめ返してくれることはなく、じたばたともがくばかりのその人が、やはり愛しかった。
ふと目に入ったユタトラの空は曇りかかっていて、なんだか不穏。
そこに感じた言い知れない不安から逃げるように、もう少し腕の中の暖かさを感じようとももは目を閉じるのだった。



- - - 上半分はここまで - - -









下半分はここにあるようだ
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