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白紙三枚目 [白紙]

そこにあったのは、何の変哲もない或るブログの、白紙のページ。
その3枚目、ここを訪れる人の多くが白紙の読み方に気付いている頃でしょうか。
いいえ、まだまだ気付かない人だって居るかもしれません。
単純な仕掛けほど、気付かないことだってあるのです。
貴方がその白紙に指を走らせると、意図して隠されたと思しき文字が浮かび上がって来ました。

きっと誰も得しないけれど、それ故に書いてみたかった。
いっそ私すら得しないくらいが丁度良い。
そんな作品が世の中一つはあっても良いでしょう。

気を付けてほしいことには一つ、
魔砲少女まじかる☆りぷるん第二話と深く関連しておりますので、そちらを先にお読みくださるとより楽しめるかと思います。

当作品は、MFLの世界を舞台にした、偉大なる先駆者やみなべの著作『魔砲少女まじかる☆りぷるん』の二次創作であり、
MFL、魔砲少女まじかる☆りぷるん、両作品の世界観や雰囲気といったものをぶち壊す可能性に満ちております。
特に、シェマや・・・まぁ、シェマなど、NPCとのやりとりが多く、貴方の愛するキャラクターたちのイメージを台無しにすることが予想されます。
けれど、魔砲少女まじかる☆りぷるんに登場するシュマを乗り越えたなら、きっと大丈夫。
この作品を読み進めるにあたり、細かいことは気になさいませんよう心よりお願い申し上げます。

また今回は、町の建物の役割を捏造したり、シェマの過去を捏造したり、
アルネロがウワァァァだったりと、相変わらず酷いことになっております。
どうか、細かいことは気になさいませんよう。
重ね重ねよろしくお願い申し上げます。



--- キ リ ト リ ---



『暴走少女スィンパ』



オープニングテーマ 『誰も噂しないジェントルガール』
作詞作曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:ミルク・プリンエル・バケット




第二話(夢) 紳士的に出くわせば



ふと目を開けば、一面の雪景色が広がっていた。
深呼吸すると、キンと張り詰めた冷たい風が肺を洗う。
万年雪に覆われて、ひたすら平らな土地の続くこの場所は 生まれ育ったヴァシアタ。
その景色が妙に懐かしい気がしてなんだか不思議な気分になった。
最近は天気の良い日が少ないけれど、今日は特に、今にもひと雨来そうな曇天で空気が重い。
目の前の広い雪原には、家とご近所さんで飼っている沢山のアルネロたちが雪の下の硬い草を食んでいる。
アルネロたちが迷子にならないよう番をするのが、私の日々の仕事だ。
肩の上、母から借りて来たアニャムーの橙が、厳しい顔をして地平線を睨んでいる。
「どうしたのそんな怖い顔して」
「・・・・・・」
黙っている橙、否、いつもと違うのは橙だけではない。
気付けば草を食むアルネロたちもヴォォォ、ヴォオオと落ち着きなく鳴き交わしていた。
傍らにいた幼いアルネロが、身体を押しつけてきた。震えて、いる。
何が違うって言うんだ、いつもと何も変わりゃしないじゃないか?
それでも不安に駆られて、樫の杖を振り上げ、掛け声を張り上げて、アルネロの群れを呼び戻す。
バラバラと集まって来るのを待っていると、橙が声を上げた。

その視線の先に地平線。
地平線が、蠢いていた。

徐々に地平線は膨らんで、その正体を明らかにしていく。
ゆっくり、そしてだんだん速く迫って来るそれは、壁のようになって押し寄せてくる、膨大な量の水から成る高波だった。
左右にはどこまでも限りなく広がり、その高さは鳥すらも逃れようなく高い。
それは海から遠い内陸部に位置するヴァシアタで生まれ育った私には初めて目にするもので、危険だと気付くまでにかなりの時間がかかった。
慌てて高原へアルネロたちを導き、自分も走る。
一目散に逃げながら、振り返って気付いてしまった。
あれは避難しようとしている先の高原も飲み込んでしまうほど大きな水の壁なのだと。
どこへ逃げれば良い?
村のどの建物だって、あんなものの前では跡形なく壊されてしまう。
故郷を古くから見守ってきた偉大なる霊峰は、弱い私たちが逃げ込むにはあまりに遠く険しい。
かつてない脅威を前にして頼るものが無く、這い寄る絶望感に足元から喰われる。
足がすくんで、べたりと雪に尻もちついて、声も無く呆ける私と、・・・あぁ、早く逃げれば良いのに、傍を離れない小さなアルネロ。
橙に噛みつかれて我に返って、震える足でどうにか走るけれど、ただ押し寄せるだけの水の塊はやっぱり速かった。
直ぐそこまでと思った時には、追いつかれていた。

瞬間が、引き延ばされて感覚に刻まれる。
水の渦巻く轟音、背後に迫った水の冷気、水の壁に背中から叩きつけられる衝撃、
ずぶりと体が呑まれていく感触、逃れようと伸ばした手の先まで溺れて、
あとは、激しい水の流れ。
あまりに冷たくて、耳が水圧でポーンとおかしくなって、鼻の奥まで水が入って痛い。
アルネロたちが水の中、溺れて行くのが見えた、
つぶらな紅い目が消えて行く、消えて行く、消えて、
さいごまで わたしのそばにいた あのちいさなあるねろが


「あにゃんにゃんにゃー!!!」
「うぅぅぅ・・・う、あ・・・・・・」
橙渾身の大音声に目を覚ませばそこはギルド寮の自室のベッド、
個人ファームよりも遥かに街に近いと気付いてから最近寝泊まりし始めたばかりで、私物はほとんどなく、薄いカーテンから漏れる光だけが部屋を彩っている。
水の中でもなければ、しばらく寝食した無人島でもなく、ユタトラから派遣された救援部隊の船の上でもなかった。
最悪の寝覚めに、部屋の薄暗ささえ眩しく視覚に突き刺さる。
「・・・たまに海に近付くと、こんな夢ばかり見ると来たもんだ」
言い訳のように呟いて、目を覆った。
最後まで、私の傍にいた、あの小さなアルネロが、結局何だったんだっけ。

穏やかな天候の続くユタトラは、毎日が遠征日和である。
さて今日は・・・・・・
「エルナさんがしばらく実家に帰る日です泣きたい」
「今更ですか、今朝にはとっくに行っちゃいましたよ もうお昼近いじゃないですか」
いつまで寝てるんですか全く、とけちょんけちょんに言われる。昔はサボりたがりな性格だったらしいくせして、いちいち厳しい助手である。
「エルナさんエルナさんエルナさんエルナさん」
「はいはい、張り切って遠征に行ってらっしゃいませ」
問答無用とばかりにギルドファームから追い出されながら、ギルドの連中が後ろで会話するのが聞こえた。
「リトバさん、エルナさんは何処行った?」
「しばらく実家に帰って頂きました」
「 ま た ス ィ ン パ か 」
「おいエルナさん何処行ったって紀伊店のk・・・なんだまたスィンパか」
「これで3度目っと」
ハッとして振り返る。
「仏の顔も3度まで・・・ってことは4度目はおしおき?おしおきされちゃうの私!!」
「喜ぶな さっさと遠征行って来いこの***!」
「うわあい伏せ字いただきました!いってきまーす!」
遠征日和がここ最近のいつも通りなら、このギルドもまたいつも通りなのであった。
伏せ字は、我々の業界ではご褒美です。


タウンの門に来る、ダッシュで長老3人衆の元まで行く、
ウ ル に 頭 を ぐ り ぐ り と 押 し 付 け る 。
「な、ん、じゃ、止めぬかこのっ馬鹿娘!」
「こらこら、ご老体に無茶なことをするんじゃない」
速攻でシェマに引きはがされた。ついでに橙にも非難の目を向けられる。
「エルナさんが居なくなった寂しさを紛らわせるにはこれしかなくって・・・」
「ウル長老がエルナ君の唯一の肉親とはいえ、他の紛らわせ方は無いのか全く・・・」
「・・・ニャー人形100体解体?」
「それを直す私の身にもなれとあれほど・・・もういい」
スィンパがニャー人形を壊すたびに再三手紙で警告したが、全く効果が無かったことを思い出したのだろう。
やれやれと眉間に手をやったシェマの向こう側で、傍にブリーダーの姿が見当たらないモンスターが目に入った。
1匹ではない、5~6匹、シグニールやマムーといった大柄なモンスターたちだ。大柄と言っても、まだ小さい身体のものばかりであるが。
その中にアンテロが居るのを見て今朝の夢を思い出す、ちょっと胸が苦しくなった。
スィンパの視線の先に気付いて、あぁあれか、とロンガが言う。
「新人ブリーダーの勉強会だな、この奥の集会所でやってるんだが、でかいモンスターは特別希望がない限りは外で待って貰ってんだ」
いつも長老衆の居るこの建物は、ギルドマスターたちの会議や3民族での協議、街の運営のための集会、はたまた有志による様々な公開講義など、いろんな集まりに使われている。
ごくごく真面目な使い方をされることもあれば、個人の作った創作物を持ち寄って展示販売する即売会が催されることもあり、ユタトラの運営の中心でありながら身近な交流の場でもあった。
それで、本日の催しは、新人ブリーダーの勉強会というわけだ。
へぇ、と呟いて、お喋りな生徒が先生に叱られる声でも聞こえないかと耳を澄ませるが、代わりにさっきまで気にしないでいた音がよく聞こえてきた。

トンットンットンットンッ
バン、バン、バン。

金槌で釘を打ち込む音に目をやれば、先日炎上した倉庫がボバン監修の元で早くも再建されているところだった。
ボバンはあのでかいハンマーでドカドカ叩いて柱同士を深く食い込ませている。
そういえば、今日は新人ブリーダーの勉強会だけれど、あの長老衆の管理する倉庫が炎上した日も新人ブリーダーの認定式だったっけ。
噂ではヴァシアタ出身の少女が魔砲少女をやっているらしいが、案外新人ブリーダーの中に居るのかもしれない。
・・・・・・いやぁ、そんな分かりやすい展開、ないか。
それでもやはり新人にまつわるイベントということで、何か起こるかも知れない。
いつ何が起こっても良いようにと、しっかり、オレンジポーチにはレッドグラスと色違いの夏の下衣を忍ばせていたのだった。

ふと視線を感じて、勉強会のブリーダーを待ち続けるモンスターたちを見やれば、柔らかい色合いの体毛をしたアンテロと目が合う。
「ヴォォォ」
アンテロとしては何かを言ったのかも知れなかったが、スィンパには分かりかねた。
夢で見たアルネロと同じくらいに小さくて、あぁ、可愛いなぁと何処かで思う。
スィンパのように、パートナーと生きてユタトラにやって来る主従はほとんどおらず、
新人ブリーダーの多くは、認定式の日にユタトラでモンスターを再生して新たな絆を結ぶ。
そこに居たモンスターたちはみな一様に、幼かった。
「そういえば、君のアニャムーは随分と年を取っているね」
思い出したようにシェマが口を開く。
触れられたくない話題を切り出されて、スィンパはぎくりとした。
とっさに、逃げたいと思ったが、足が動かない。
喧騒が遠ざかる。
「あまり無理をさせないで・・・引退させてやったらどうだ?」
「い、引退・・・・・・」
「余生をゆっくりさせてやって、新しいパートナーを育てる時期だろう」
「・・・・・・あたら、し、い」
「人も、モンスターも、その命は永遠じゃないからな」
「・・・・・・」
唇を噛んで、考える。
考えても考えなくても同じだ、シェマの言うことは全て正しいのだから。
正論に太刀打ちはできないが、それでも、ブリーダーとして新しいモンスターを育てられない理由があった。
「津波一つでも、すぐに死んでしまうんだ。・・・そんなの分かってる」
無愛想な顔をして、すがるように橙を抱きしめると、橙の方は戸惑った様子で抱きすくめられる。
「・・・・・・フゥゥッ」
黙りこむスィンパと、こちらを睨んで威嚇する橙を見て、シェマは息をついた。
「お互いに大海嘯から生き延びて間もなかったな、君たちのことは君たちの自由だ。…焦らせて済まない」
全くだ、と言い返す気も、起きなかった。

なんとなく気まずい雰囲気を、集会所から湧きあがった人々の声が破った。
カラリと集会所の横開きの戸が開いて、ばらばらと新人ブリーダーたちが出て来る。
新人ブリーダーの勉強会が終わったらしい。
外に相棒を待たせていた人などは駆け出して来て、モンスターたちはそれを喜んで出迎えた。
さっきのアンテロも小さな目をつぶりそうなほどに細くして、ドラグヘルムの青年に頭を突き付けている。
・・・いやぁ、むしろドラグヘルムの青年が頭を突き付けている?
「に゛ゃー」
苦しげな鳴き声に手元を見れば、抱きすくめられた橙が顔をしかめているのだった。
そうだったそうだった、と腕を緩めたところで、にわかに集会所が騒がしくなる。
『あんたはあああぁぁぁ!!』
怒号と共に何かが弾ける炸裂音、パァンと屋根の一部が吹っ飛んで行った。
直後に、主要な柱の一つが折れたのだろう、ズドォンと低く響きながら、屋根がガクリと傾いてガラガラこぼれて行く。
まだ居残っていた人々が、悲鳴を上げたり肩を貸し合ったりしながら、集会所から転がり出て来た。
これだけ大きな建物を支える柱が折れるほどの威力、これはモンスターが誤って暴発させたってレベルではないのが分かる。
少なくとも、ブリーダーから正確に指示を受けなければ有り得ない威力。
そして再び場所は新人ブリーダーにまつわる場所。
つまり。
答えが出たと同時に普段着の夏衣を躊躇いもなく脱いだ。
それはもう、橙が止める隙もない速さで。
「なっ、おい、君は何をする気だ!?」
「お構いな・・・なにぃ!?」
ポーチから出した色違いの夏の下衣を履き、レッドグラスをかけながらシェマを見上げて、瞬間 時が止まる。
「シェマさん何その・・・蝶の仮面・・・」
「君こそなんだ、そのレッドグラスは」
思わぬところでライバルが登場したものだった。
しかもよく見ると蝶の仮面には年季が入っている、古参だと・・・悔しい。
普段の立ち位置から避難しかけた他二人の長老を振り返ってみれば、ウルが白い目でこちらを見ていたり、ロンガが爆笑するのを堪えてプルプルしながらそっぽを向いていたり。
スィンパは大変遺憾に思った。

しかし衣装が整っただけでは事件は解決しない。
何か激しく激昂する声が続いて、パンッパンッと、音が続く。
多分水の技なのだろう、連撃で散った水の粒がたち昇り、濃く集会場上空に散って行ったと思ったら、・・・・・・なんだろう、何かが変わったのが分かった。
「やれやれ、今回もリプル君がどうにかしてくれそうだな…」
「あ?リプルくん?そして他力本願?」
「いや、此方の話だ。そして一つ言いたいことに…」
シェマの話になど聞く耳持たず。脱いだ衣類をぐしゃぐしゃのままでオレンジポーチに突っ込もうとすると、橙が見咎めるように、にゃあ!と声を上げた。ピンチを打開する役割を負う者には、品性に欠ける行為だとでも言いたいのだろうか。
「この仮面を付けている時、私のことはシュマということにしておいてくれ」
「知ったことか私は忙しいんだ!」
慌てて畳むと上手く入らず、二度手間をかけつつどうにか畳みおおせてオレンジポーチにしまう。
「だから君は何をする気なんだ!?おいっ!待て!!」
後ろでやかましいのを放って、ダッシュで駆け込む集会場跡。
登場のタイミングを測るため、崩れた天井の瓦礫の裏に滑り込んだ。

集会場はだいぶ大変なことになっていて、屋根だった物だの、机だの椅子だのが散らかり、講義の時に出て来る可動式の黒板は真っ二つで、本棚は原型が無かった。
水の技の打ちっぱなしで、一面うっすらと水浸し。
そしてトドメには空の見える天井、今日も本当にいい天気だ。
採光は抜群となったその部屋で、見慣れない衣装をまとったちびっこい少女が、同じく見慣れないピンクの衣装の少女の胸倉を掴み上げていた。
ヴァシアタ、シディララマ、ガランカナン、どこの土地のものでもないその衣装は魔砲少女に相応しい異彩を放つ。
だが、魔砲少女が二人?何事?
掴み上げられているピンクの魔砲少女を見て思い出す、ピンクといえば噂のマジカルキャノンガールの色である。
初めて見た正義の味方は、最初からピンチだった。
『終わりか。つまらない、けどもういいや。』
うわぁ登場のタイミング今だったんじゃね!?
会話から状況を把握しようと思ったが、今がその時とは思わなかった。
『そのイダルは私が』
「ちょまっ・・・」
続いたその言葉に飛び出して行こうと腰を浮かせた瞬間、
ちびっ子に向かって一筋の雷撃が走った。
ちびっ子は回避したが、その分 ピンクとの距離は開く。
どこからともなく、青い影が飛び出した。
尖った角の、ライガー。雷撃の主はあのわんこらしい。
ちびっ子の指示にディナシーが繰り出した水弾を軽やかに避け、ピンクを咥えてちびっ子から距離をとった。
そこに仕切り直しの間合いが、出来る。
「あれをなぜ避けられる?なんだあのライガー・・・」
ぽつっと呟くのを、橙は黙って聞いていた。
完全なタイミングで出番を奪われたが、文句を言えないだけの実力を見せつけられた。
そして、ライガーとピンクの間で言葉の掛け合いがあり、よろりとピンクが立ちあがる。
大技を繰り出す前の、空気が張り詰めるほどの集中。
対するちびっ子が展開したのは、ディナシーが作った水の壁。
電気は水で遮断が何とかという声が聞こえたが、既にスィンパの意識は水の壁に全部持っていかれていた。
その水の壁はまるで、あの日故郷を襲った津波のように厚くて、見るだけでどうしようもない代物。
きっとすべて呑み込んで、台無しにしてしまう。
頭のどこかで、あぁ、駄目だ、と思った。思考が止まって、打開策を導くことすら放棄する。
しかし一方で、ピンクは満身創痍の身体で立ちながら、諦めていないようだった。
ピンクがライガーに指示を送る。
静かに一言、そして炎の長杖を、迫りくるちびっ子に突き付けた。
同時に、ライガーの放った閃光。
それはあまりに眩しすぎたが、目は反らすことなく、
スィンパは、水の壁を真っ直ぐに貫く一条の光を見たのだった。

「は、ひ。」
息を詰めてその光景を見届けた後は、半ば茫然と、瓦礫に背を預けて座り込んだ。
・・・腰が抜けたともいう。
太陽を直接目にしたかのように、光を見た跡が視界を跨ぐ。
どうやらその一撃で勝負はついたらしく、そのまましばらく、静かな時間が続いた。
静かになったのを見計らって、シュマ・・・いや、仮面無しのシェマは医療班を率いて集会場に踏み込む。
シェマが仮面を外しているのに気付いてこちらも慌ててレッドグラスを外した。
特別な装備というのは、有事の時に限り装備することに意味があるのだ。
「取り残された怪我人は・・・2人だけか」
「この子は担架だ、君は歩けるね?」
担架に乗せられ、救急員に肩を貸され、運び出されていく二人。多分そのまま町外れの病院に行くのだろう。
衣装がいつの間にか一般によく見かけられる服装に戻っているのに驚いたが、こちらが瓦礫にくっついてじっとしていたためだろう、魔砲少女は酷く疲れた顔をして、気付かないまま通り過ぎて行った。
「君は本当に何をしに来たんだ・・・」
「・・・その質問には、なぜ蝶の仮面なのかという質問で返したいね」
いつの間にか瓦礫の向こう側にいたらしいシェマに声をかけられ、憮然とした態度で返す。
「様子からして、魔砲少女のピンチを救うヒーローになりたいといったところかな?」
流石は覆面仲間というところか、思考回路まで同じとは思わなかった。
「あの水の壁を見て、君は諦めたろう」
「・・・まぁね」
否定はするまい。
「しかしリプル君は諦めなかった」
全くその通り。
次に来る台詞は予想できた。
「君にヒーローは無理だ」
「ごもっともです」
「断念する気は?」
「毛頭ないね」
スラスラと交わされる言葉の応酬。
向き合うことすらないが、瓦礫の向こうでシェマの笑うのが分かった。
おおかた、予想通りの返事だったのだろう。面白くない話だ。
「言っておくけど、止めたって無駄だからね?」
「君が人の注意を聞く人間じゃないことは承知している」
そりゃ、ニャー人形100体壊しちゃ、なぁ。
言葉の途切れた一瞬の間に、いがみ合う二人の思考が一致したのは、或る意味で必然だった。
こほん、と、気を取り直すように咳払いをして、シェマは続ける。
「私はリプル君の動向を一切君には伝えないし、君を止めるチャンスがあれば全力で止める」
「ほほう、止まれと言われて走り出すこの私を止めてみせるとな」
「当然その時は実力行使だ、覚えておきたまえ。・・・とりあえず、私が言いたいことはそれだけだ」
ガリ、と瓦礫を踏みしめて、シェマは外へ出て行く。
去り際に見えた横顔の余裕の表情が気に入らなくて、スィンパは いーっと歯を剥き、その後ろ姿を見送るのだった。


「シェマさんの黒歴史ですって?」
全く予想外の問いだったのだろう、素っ頓狂な声でオウム返しにされる。
場所はギルドファームの丸太机、木漏れ日の下にティーカップを並べて、リトバとスィンパは会談していた。
シディララマ出身のリトバはシェマと同郷ということで、何か聞き出してやろうと画策したのだった。
・・・というか、他にシェマと繋がりがあってお喋りが出来そうな相手はあまり思いつかなかい。
「いやねぇ、黒歴史に限らず、こう、若気の至り的な・・・」
「シェマさんの弱みを掴もうなんて、今度はまた何を企んでるんですか」
単刀直入に切り込み過ぎたらしく、ジト目で見られる。
一体私をなんだと思っているんだ、この人は・・・といっても、お茶目な悪戯を企んだ前科など数えきれないほどあったので、「別に何も企んでナイヨー」とはぐらかしながら角度を変えて再び挑む。
もっと適当な話題から入ろう、魔砲少女繋がりで、・・・そう、例えば有名人の話題から。
「じゃ違う話で良いよ、シディララマに凄い人って誰か居たっけ」
「また唐突な・・・シディララマで偉人?って、一人しかいないじゃないですか」
「あれ?いたっけ?」
「それ本気で言ってます?」
特に深く考えることなく訊いた質問だったが、あまりに簡単な問いだったようでリトバは呆れ顔で答える。
「シディララマの長老、アルレムさんですよ」
あぁ、と納得。噂を聞く限りじゃ確かに偉人だ。
というか思い出してみれば、その噂の出所がシェマなんだった。三日三晩大変な化け物を相手に戦い続けたんだっけか、雷を使うとか何とか・・・あぁいや思いだせないけれど。
とにかく相当好きな話なのか何度も聞かされた。
「よくアルレム長老の武勇伝は聞かされるでしょう?ブリーダーさん相手には長話しないようですけど、じっくり聞いてみると凄く臨場感のある語りで・・・一聴の価値ありですよ」
「へー、語り部も出来るんだ。臨場感、ねぇ・・・」
相槌を打ちながら、ついっと手元でさり気なく茶菓子を勧めれば、話している本人も気付かぬうちに気分が乗って来る。
回る舌は話題となる記憶を掘り起こして行く、リトバの中で一つの古い記憶が引き出され、あぁそういえばと言葉を継いだ。
「アルレム長老が直々に遠征に出かけて行くとき、変な人物が隠れて付いて行くのが度々目撃された。なんて噂がシディララマにありました」
「不審者?」
「まぁ・・・不審者ですね、けれど特に何も悪さをしないからと長老は気にしないでいたそうです」
「ふーん、で、オチは?」
特に期待はしないで訊きながら、ティーカップに口を付けた。一体何の茶葉なのか、香りは良いが石鹸みたいな味がする。
「ただのお喋りにいちいちオチを求めないで下さいよ・・・蝶の仮面の不審者相手に寛容になれる長老は凄いなってだけです」
ぶふぉっと見事に吹き出して、正面にいたリトバが「ちょやっ、吹きどころが分かりませんよ!もー汚いですね!」と文句を垂れる。
そんなことは置いといて、むせながらも訊き直す。
「げっほ。ちょ、蝶、の、仮面だったの?」
「不審でしょう?」
「そりゃふしん・・・だね・・・」
ねぇ橙、シェマさんじゃないの、蝶の仮面って。
視線で問えば、いつの間にかオレンジポーチからレッドグラスを持ち出して弄っていた橙が、返事のつもりか、にゃーんと鳴いた。
「でもなんでこんな、流行りもしなかった噂話を今頃になって思い出したんでしょう・・・」
スィンパに釣られて橙を見れば、ああ、と納得したように声を上げる。
「無意識にレッドグラスが目に入ったのかもしれませんね、丁度、奇抜なセンスが蝶の仮面と良い勝負ですし」
「え、いやそんなことないよ?レッドグラスの方がカッコいいじゃない」
「裸足が至高なんて言う人と意見が違って或る意味安心しました」
「え、えー・・・」
なかなか鋭い切り返しである。
「ところで知ってます?ある遠征地で落とし穴にはまったギモが発見されたとか。・・・って遠征といえばスィンパさん、当たり前のようにお茶飲んでますけど、今日の遠征は?」
続いてなかなかキレのある話題転換である。
「なに黙って・・・あ、逃げっ!?ちょっと!まだ話は終わってませんよ!!」
背中でその声を受け止めながら、駆け足にギルドファームの柵を飛び越え、橙はレッドグラスを咥えて後を追うのだった。


助手に逃げ足、美女に駆け足、行く先々で千鳥足。
助手とお茶を飲みながら、その日も過ぎていく。
街を襲った事件もまた、解決してしまえば穏やかな日常へと溶けていき。
今日も人々の生活は、いつも通り。


ようやく出会った魔砲少女は強かで、
一切の手出しは無用であるように思われましたが、
娘はまだまだ諦めていない様子です。
娘が新しいモンスターを育てられない理由とは、
長老代理が躍起になって娘を止める理由とは、
この物語が、無事に完結するのかどうか・・・
いぢめる神様といぢめられる神様にしか、分からない。




エンディングテーマ 『暴走爆走大驀進!』
作詞作曲:暴走少女スィンパ制作委員会
歌:スィンパ
暴走:スィンパ

字幕:前回のエンディングテーマ『スィンパのパラダイス』は、あまりに紳士的過ぎると抗議が相次ぎましたので元のエンディングテーマをお送りいたします。お騒がせいたしました。

【次回予告】
にゃ          字幕:(橙です。)
うにゃにゃ、にゃーん 字幕:(魔砲少女を一方的に見はしたけれど、今回は気付かれずに終わったようですね。)
にゃはー        字幕:(今度はどこかの島に行くのだとか。)
にゃにゃん、あにゃぁ  字幕:(ビーチでのんびりしていたいところですが、そんな平穏には済まないようです。)
んにゃ、にゃーにゃう  字幕:(次回、第三話(楽)紳士的に踏み出せば)
にゃふん        字幕:(とても、疲れます。)



--- ア ト ガ キ ---



魔砲少女まじかる☆りぷるんと違った描写があったとしても気にしてはいけない、これは、難しいことです。
しかし、気にしてはいけないのです。
何か気付くことがあったとしても、気にしないで下さい。
あと、魔砲少女まじかる☆りぷるんにおけるシェマさんの扱いはもともと酷かったのを思い出したので、黒歴史の一つや二つ増やしたところでどうということもないことに気付きました。
自己満足展開がマッハで辛いです。
どうか気にしないで下さい。

さて前回の第一話ではどうにか一つの出来事を解決した一方で、
今回の第二話では魔砲少女の活躍を横で見ていただけで終わりました。
驚きの活躍の無さですね!そういう回なんです、突っ込みはセルフ突っ込みを何百といたしましたのでこれ以上は無くって良いと思います。
大海嘯に遭ったときのことが書きたかっただけです(キリッ
助けに入る隙を見せないアーモンドさん本当に半端ないです。

ところで、三長老の背後にある建物は、タウンにおいては出航受付所と並んで最も大きい建造物ですが、大海嘯後で復興に忙しい時期に形だけの建物を建てることは無いだろうということで、さぞや有効利用しているに違いないと思いました。
実際のところユタトラで即売会というものがあるとすれば、晴れ続きの島ユタトラなわけだし、ギルドファームなんかでもきっと開催していたりするのでしょう。ぐへへ

そして、公開直前の読みなおしで、はたと、あるキャラクター同士の関係の解釈がおかしかったことに気付いて全力で方向転換を施しました。
ゲーム内の台詞の意味を今になって理解する私でした。
一歩間違えれば大恥かくところでしたね、セーフセーフ。
暴走少女書いてる時点でいろいろと手遅れですが。

このペースで公開していくと、どうも5~6話に休載が入りまくると思います。
まだ少し先の話ですが、ゆっくりしていってね!


ともあれ、ようやく魔砲少女と遭遇しました。
ここまで長かった・・・ (※第二話です
それでは、また次の白紙もどきにて。







ここから先は、焦げて読めなくなっている。

炙るなら気を付けてねとあれほど・・・・・・

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